キャンパス日誌

学生たちの「留学体験」座談会

司会:お集まりいただきありがとうございます。今日は、皆さんが留学中に積み重ねた貴重な体験の数々を語っていただきます。国際交流の意義を考え、これから留学を考えている人にも何らかのヒントを与えることができればと願っています。

留学の動機

司会:まずは、皆さんの留学の動機を聞かせてください。

中野:英語が苦手なほうだったので、海外に行って、英語力を身につけたいと思ったのが一つ。固定観念が強いほうなので自由な発想を身につけたいと思ったのが一つです。

比企:高校生の時から韓国のドラマやKポップを聞くようになって、韓国という国に興味を持ったんです。大学で勉強していくうちに一度は留学してみたいなと思うようになり、思い切って行動に出ました。

小池:高校の時にオーストラリアで2週間過ごす機会があり、狭い日本を離れたら急に視野が広がりました。その時から大学に入ったら留学することを心に決め、資金を貯めて留学に臨みました。

スタート時のエピソード

司会:どんな感じで海外生活のスタートを切りましたか。

小池:空港に到着して、入国審査で「申告するものありますか」と聞かれました。「申告する」の「デクレア」が「エクレア」に聞こえて、「甘いものは好きじゃないです」と返してしまいました。入国第一歩からいきなり会話がかみ合わず、しばらくはトラウマでした。

比企:韓国人は、初対面でも普通に年齢を聞いてきます。私の友達は、年が一緒であることが分かった瞬間、いきなり親友のように打ち解けてくれました。日本人が作るような心理的な壁がすぐにとっぱらわれる人間関係に驚くとともに、いいなと思いました。

中野:挨拶の仕方ですが、日本だったら会釈程度が普通です。クラスメートは多国籍でしたが、握手はもちろんハグを求めてくる人が多かったです。最初それをやろうとしなかった自分は冷たい人だな、って思われたみたいで、スペイン人の友達に言われてしまった時はショックでした。

留学の有意義性

司会:留学中、有意義だった、勉強になったと感じた体験を語ってもらえますか。

中野:英語をフルタイムで勉強できました。クラスは6,7人の少人数で、話すチャンスに恵まれました。ヨーロッパ系の人たちが多かったのですが、分からないことがあれば分かるまで質問し続ける、という姿勢に刺激を受けました。午後は授業がなく、友達と街を歩いたりするのですが、それもみな英語です。家に帰れば、ホストマザーと英語で話し、テレビも当然全部英語です。

比企:クラスの人数は12人程で、2,3人の日本人以外は中国人の方でした。中国人とお互いの外国語である韓国語を話すという体験は面白かったです。午後は中国人の友達と食事をしたり、カフェに行ったり。カフェでは、韓国人がどんな話をしているのか、友達と聞き耳を立てました。こんな時はこういうのかって感じで、生の韓国語会話を学びました。

司会:外国人同士で外国語を使うということ。これも留学ならではの体験ですね。

比企:お互い完璧じゃないから、それがすごく気楽でもありました。

小池:シアトルはコーヒーショップが多く、ほぼ毎日行きました。お店の人と仲良くなったり、日本ではやらないけれど、他のお客さんに声をかけたり。それを続けていったら、会話の応答のコツが身についていきました。お店の人が移民であったりすると、移住当時の苦労を思い出してくれて、より心が通じ合う、っていう瞬間もありました。今でも友達でいます。

司会:カジュアルな会話の勉強法、いろいろと参考になりますね。コーヒーショップでは、他のお客さんにどんなふうに声をかけるんですか。

小池:緊張しましたが、「ここ座ってもいいですか」で始めると、そのあと会話が自然と続くんです。童顔なので子供だと思われていたみたいです。

大変だったこと

司会:留学はすべてがカッコイイことではないですよね。大変だったことやつらかったことの体験談をお願いします。

中野:まずは英語です。最初の1,2週間は、伝わらない、聞こえない。「もういいよ」みたいな言い方をされた時は落ち込みました。もうひとつは食堂です。これは面白いこととも言えるのですが、留学生たちの様々な言語がたくさん飛び交い、頭が痛くなりました。

司会:それは「贅沢」な空間ですね。留学生の友達を通して、彼らの文化を学べましたか。

中野:スペイン人の方は情に厚かったです。友達の送別会には必ず参加してくれました。韓国人の方は同じアジア人だな、と感じました。

司会:韓国では日本人と韓国人の違いを感じ、ヨーロッパでは同族意識を感じる。違いの相対性が興味深いですね。

比企:大変だったことは寒さです。2月は極寒で、マイナス17度の日もありました。顔も耳も真っ赤になりました。家の中は、オンドルという床暖房があり、とても温かいのですが。あとは、発音が通じないこと。こんなに勉強してきたのに何で通じないんだろうと。

司会:日本の高校は英語一色という感じがありますが、比企さんはどうやって韓国語を学んできたんですか。

比企:Kポップが好きだったので、それを自分で和訳して勉強しました。大学に入ってからは韓国語の授業を取りました。留学先では、中国人のスピーキング力に驚きました。中国人同士が話す中国語を聞くのは実は苦しかったのですが、私たちに韓国語で積極的に話しかけてくれるのでとても助かりました。

小池:銀行に口座を作ろうしたのですが、言葉も勝手も分からずに、開設まで4時間くらいかかりました。本当にこの先どうなるのかと思いました。不法滞在の疑いをかけられていたみたいで、8か月のみの滞在ということが伝わった途端、方がつきました。

比企:わたしも韓国で口座を作りましたが、10分で終わりました。ハンコもいらないし、パスポートはコピーでいいし、外国人登録証は申請中と言ったら、まあいいかって感じでした。この適当さが楽でした。

司会:アメリカの貯金通帳は機械が記入してくれるのではく、自分が手書きで記録していくんです。この違いもびっくりですね。窓口は厚いガラスが張られていて、下の隙間からお金を受け渡しするところもアメリカらしいです。

小池:銀行のATMコーナーは自分のカードをスキャンしないと入れなかったです。下手をして入ろうとするとアラームが鳴ってしまいます。

宿題と生活スタイル

司会:小池君の学校生活はいかがでしたか。

小池:中野君と同じで最初の1,2週間は地獄でした。ホームステイだったので家に帰ってからも英語。悩みがあっても日本語で相談できない、というのはつらいですよ。クラスの人数は3,4人程度で、午前午後3時間ずつの授業でした。かなり鍛えられたと思います。

司会:宿題は大変でしたか。せっかく外国に来たのだからいろいろな体験をしたいという思いとの葛藤はありましたか。

中野:午前のみの授業だったので余裕がありました。週末のバスツアーでは、いろいろな学校の留学生が集まるので、そこでの新しい出会いもあり面白かったです。

比企:宿題は少なかったです。私も午後は自由時間で、宿題は夜にささっとする程度でした。友達ができてからはいろいろな所へ連れて行ってもらいました。

小池:最初は教科書程度の学習でしたが、やがて毎日レポートが課されるようになりました。最後のほうは、夜のテレビ番組を見て感想を書いたり、CNNのサイトで、あの頃問題になっていたリビア情勢のことを調べたりする宿題が出ました。できるのかなあと思いましたが、何とかなった感じです。人間の適応力ってなかなかですね。

司会:そのような本格的な勉強ができる、というのは長期留学の魅力ですね。

驚きの異文化体験

司会:驚きの異文化体験がありましたらご紹介お願いします。

小池:ポジティブなところが違いましたね。「サンクス」という言葉はよく使いますが、「アイム・ソーリー」はあまり使われません。あと、シアトルには日本食レストランが結構あるのですが、韓国料理とミックスになっているところが多かったです。「うどん、そば、キムチ」という感じです。ラーメン屋もあったのですが、麺をれんげにのせて、音を立てずに食べるのがマナーだと教わった時は「え〜」と思いました。

比企:一つは交通ルールです。日本で優先されるのは歩行者ですが、韓国では車でした。信号無視はしょっちゅうで、歩いている目の前を車がびゅんびゅん通り過ぎていきます。もう一つは、一つの鍋の中の料理を一緒に食べる文化です。「31」(アイスクリーム屋)では、友達と一緒に行くと、同じ種類のアイスを一つのカップで注文します。だから一番大きいサイズが人気なんです。これは日本にない文化ですね。

中野:イギリスでは水が貴重でした。洗濯の回数が限られていたり、温水シャワーの制限時間があったり、レストランで水が出されることは普通ありません。一回、引っかかったことがありまして、有料とは知らず、「水、下さい」と言ってしまったのです。料理より高い「水代」をあとで請求されてしまいました。

司会:『日本人とユダヤ人』というベストセラー本があったのですが、そこに「水と安全はタダだと思うな」という有名なフレーズがありました。日本がいかに恵まれているかを改めて実感する話ですね。

留学を通しての成長

司会:留学は勇気がいるし、準備も大変だし、何よりも自分の日常生活を大幅に変えるわけですから、乗り越えるべきことがたくさんあります。留学を経て、自分が一番変わったと思うことは何ですか。

比企:日本への理解が深まりました。日本の恵まれているところは先ほどの「水」であったり、どこにでもあるトイレであったり、お店の人の接客態度であったりと感じることができました。人との距離感の近さや情の厚さは韓国からたくさん学びました。異文化比較の面白さを感じ、他の国の文化への興味も深まっています。

司会:日本と韓国を比較して、そしてさらに広い世界へと比較を広げていく。違いや多様性の気づきは心を大きくしますね。

中野:積極的に自分から人に関われるようになったことです。人見知りしていたら、向こうでは距離が離れていきます。あと、人それぞれの考え方の違いが面白かったので、なおさら、人と関わってその人の考えを知ることへの好奇心が高まりました。

司会:おとなしくて人見知りする性格の人ほど、留学をしてほしいですね。劇的な変化を与えてくれるチャンスだと思います。外国だからできる、ということがたくさんありますから。

小池:英語について、間違いを恐れなくなりました。向こうでは、英語が間違ってて当たり前でした。日本に帰ってきてからも、何かを伝えたい、コミュニケーションを取りたいという意思が大切だと思い、外国人の先生方にそういう姿勢で話しかけることができるようになりました。

司会:日本ではテストの点数を重視するせいか、間違いがいけないこと、という固定観念がありますね。自分のメッセージを伝え、相手のメッセージを聞いて考えて、お互いで新しい考えを生み出していくというコミュニケーションの機会を増やしたいですね。

後輩へのメッセージ

司会:異文化理解、積極性、コミュニケーション力、とそれぞれに皆さんの留学の財産を語ってもらいました。最後に、後輩へのメッセージとして、さらにつけ足したいことがありましたらお願いします。

小池:留学したい、という気持ちだけでは留学は長く続かないかもしれません。留学を通して何をしたいのか、その先のことまで考えておかないと途中で挫折してしまいます。ただの観光ではない、ということを自覚して、目標を立てておくといいですね。

司会:留学が何かを成し遂げるためのスタートだと考えれば、なお有意義な内容になるでしょうね。

中野:短期留学の場合は、とりあえず行ってみてほしいです。自分もそうでしたが、英語が心配、という人もいると思います。行ってみて、英語力はもちろん向上しましたし、人格形成にも役立ちました。行ってみて損はしないな、と思いましたね。

司会:短期の場合はまず行ってみるということ。そして英語力はもちろん、それ以外のことで様々な勉強ができる、ということ。これは声を大にしてPRしていただきたいところです。

比企:留学というと欧米を思い浮かべる人が多いと思うんですが、最近は韓国に興味がある人が増えているし、アジアもいいと思います。思い立ったら、行ってみる。私はそんな性格ですが、行きたいと思っている人は、できるだけ若いうちに行くことをおすすめします。

司会:時代が今変化していて、韓国や中国の躍進がすごいですね。経済の勢い、そして、彼らのエネルギーをこの目で見て、大きな刺激を受けるチャンスがアジアにありますね。

比企:韓国は特にITの発達がすごかったです。近いけど、それだからこそわからない、ということがたくさんあると思います。

司会:お話しは尽きないのですが、いつかこの続きをしたいですね。留学経験を通してたくましくなった皆さんの成長ぶりを目の当たりにすることができ嬉しかったです。これから留学を考えている人にとっても大変参考になるお話しをいただきました。本当にありがとうございました。