キャンパス日誌

桑原ヒサ子先生に敬和学園大学名誉教授の称号が贈られました

1991年の大学開学当初から2021年3月までの30年間にわたって本学に多大な貢献をしてくださいました桑原ヒサ子先生(ドイツ文学)に、去る6月16日敬和学園大学名誉教授の称号が贈られました。

長年にわたりご尽力くださった桑原ヒサ子先生に名誉教授号を授与しました

 

桑原先生は1991年から1995年まで一般教育専任講師、1995年から2000年まで国際文化学科助教授、2000年から2021年まで同学科教授として、ドイツ語、ドイツ語文化圏研究、専門演習などを担当されました。チャペル・アッセンブリ・アワーでの最終講義では、ミヒャエル・エンデの『はてしない物語』を取り上げ、この作品においてエンデはヴォルフガング・イーザーの読者論をテーマ化しているとの仮説を立て、本を読む主人公バスチアンとファンタジーエン国の人々とのコミュニケーションを軸に話されました。文学が常に作者と物語と読者による対話であることが印象づけられました。作品に埋め込まれた細かな象徴や言葉の意味に至るまで嬉々として文学の話をされる桑原先生のお姿を拝見し、先生が文学を心から楽しんでおられることが伝わってきました。

2021年1月22日チャペル・アッセンブリ・アワーでの最終講義

 

大学運営に関しては、ほとんどすべての委員会の委員を務め、広報委員長として『敬和カレッジレポート』の年に4回の発行を軌道に乗せ、入試委員長、国際文化学科長、教務部長、学長補佐(財務担当)などの要職を歴任されました。難しい局面での決定の数々において、先生のぶれることのない理路整然とした判断によって議論が導かれることもしばしばありました。教職員にはきめ細かな心遣いをいただくことも多々ありました。ご退職にあたっての送別会では、入試委員長時代の他県への高校訪問についてお話しされましたが、今よりはのどかな時代、事務局の担当者とさまざまなところへ出かけて行った苦労話も、なぜかいつもご当地の食べ物の話と結びつき、楽しい思い出として会場を沸かせておられました。

送別会では、たくさんの思い出をお話ししてくださいました

 

地域貢献においてもその力量を発揮し、新発田市男女共同参画審議会会長、子ども・子育て会議会長などを経て、新発田市教育委員を2016年度から現在に至るまで務めておられます。
研究面ではドイツ演劇を中心としたドイツ文学に関する研究のほか、加納美紀代特任教授を研究代表者とする共同研究で、戦時下における銃後の女性の表象についての研究を精力的に進められました。それらは競争的資金を獲得した研究として「表象に見る第二次世界大戦下の女性の戦争協力とジェンダー平等に関する国際比較」(2005-2008)に始まり、「帝国解体と戦後秩序構築課程における大衆メディアのジェンダー・エスニシティ表象分析」(2015-2018)にまで発展していきました。これらの研究成果が最終的に『ナチス機関誌「女性展望」を読む:女性表象、日常生活、戦時動員』(青弓社、2020年)に結実したことに、先生の研究生活の太い道筋を見る思いがします。このご高著は、東京女子大学女性学研究所より「第36回女性史青山なを賞」を受賞されました。

受賞作『ナチス機関誌「女性展望」を読む:女性表象、日常生活、戦時動員』

 

敬和学園大学の30年の歩みは桑原先生の教員・研究者としての歩みとほぼ重なります。本学開学時からの先生の若々しい姿のスライドショーを見ながら、先生が誠実かつエネルギッシュに、教育・研究・大学運営・地域貢献に尽力くださいましたことを確認し、感謝の念を深めました。
先生の大きなお声は有名でした。大教室でもマイクを必要とされないほどによく響き渡るお声で学生たちを導かれる先生のお姿は、敬和のキャンパスを彩る一つの風景といってもよいものでした。そのことに触れさせていただいた折、笑顔を浮かべられながら、「大きな声の人に悪い人はいないっていうでしょ」と、本気とも冗談ともつかない口調でおっしゃられました。このことが声の大きなすべての人にあてはまるかはいざ知らず、先生に関しては、まことにその通り。表裏のない、強い正義感をお持ちの方であられました。竹を割ったような、筋の通らぬことをお嫌いになられるまっすぐなご気性、問題を抱えた学生や教職員に優しく寄り添ってくださるお人柄、さらには学内の困難な役目を意気に感じつつ引き受けてくださるお姿に、いわゆる「江戸っ子気質(かたぎ)」の真髄を見る思いがいたしました(先生は、東京生まれの東京育ち)。建学以来、本学の良心の声であり続けた先生の大きなお声がキャンパスに響かなくなることの寂しさを感じると共に、残された者たちの責任の重さを覚えます。
忘れてならないことの一つに、本学のキリスト教教育を真摯にお支えくださったことがあります。ご自身はキリスト教信仰をお持ちではないにもかかわらず、本学におけるキリスト教教育の占める位置を深く理解してくださいました。「キリスト教と教育委員会」の委員を引き受けてくださったこともありました。着任早々の宗教部長(下田尾)に対して、「先生のお立場は、ある意味において、本学において一番大切です」とおっしゃってくださいました。そのお言葉の証しのようなかたちで、宗教部長に関わる人事の任を、本学でのご自身の「最後の大事な仕事」として申し出られ、誠実にお果たしくださいました。クリスマスのキャンドルサービス(燭火礼拝)をはじめ、折に触れてチャペル・アッセンブリ・アワーにも足をお運びくださいました。本学の創立の心を大切にしてくださる先生のようなノンクリスチャンの教員・職員の方々によって、敬和のキリスト教教育が支えられてきたことを改めて覚えます。このことは、いくら感謝してもしきれないことです。

2021年度はドイツ語文化圏研究を非常勤講師として教えてくださっています。今後も名誉教授として大学と関わっていただきつつ、先生の長年のご尽力が労われますことと、今後のご活躍をお祈りするものです。桑原ヒサ子先生、ありがとうございました。(学長補佐 金山愛子、宗教部長 下田尾治郎)