学長室だより

2004年7月2日号

『蒲原平野に生かされて』(2004年4月刊)という本が学長室に姿を現わした。青木きいさんという農家のご婦人が書かれた記録である。厳しい農作業のなかから、苦しさとともに、一種の明るさが伝わってくる。田圃にとって、一番の対決相手は雑草である。草取りにたいして有効なのは、除草剤であった。しかし、「次女を生んで40日目に」頭痛と吐気に襲われて、倒れる。慢性農薬中毒症、自立神経失調症とわかり、神奈川県の病院まで通院する身となる。しかし、青木さんはくじけない。土を愛し、家族を愛し、地域を愛し、そして(ここが少し違うのだが)短歌を愛した。相当数が『新潟日報』の「日報歌壇」に載った。「休み田の地力吸ひ上げ鬼稗(ひえ)の穂のふとぶとと茂り居るなり。」これは作者の姿だ。文芸がこの農婦の支えとなっている。それがこの方の明るさのもといである。「耕作」cultusは、そもそも「文化」cultureの母であったのだ。(新井 明)