学長室だより

2006年5月12日号

信州と甲州の県境をなす八ヶ岳連峰の南麓に野辺山というところがある。主峰・赤岳を仰ぐ山麓である。敗戦直後の1946年にこの地の開拓に入ったなん人かがあった。しかし、なん年たっても、米ができなかった。寒冷地であったからだ。大部分は山を下りた。佐々木一夫は数名の者と聖書を読みつづけた。あるとき、イエスのことば――第1に、まず神の国を求めよ。第2、明日のことまで思い煩うな。このことばに接したあとの佐々木はひとが変わった。かれの開拓者魂に火がついた。いまは日本を代表する高名な高原野菜の産地となった。
葬儀を依頼されたわたしは、この『野辺山高原に生きる』の著者の遺影にむかって、あなたのほうが赤岳より高い、と語りかけた。(新井 明)