学長室だより

小林陽太郎氏とリベラルアーツ教育

台風が各地にすさまじい爪痕を遺して過ぎ去った後に、久しぶりの晴れ間となり、ようやく稲刈りが始まりました。
9月5日に富士ゼロックス元会長で経済同友会元代表幹事の小林陽太郎氏が82歳で逝去され、数日後に新聞各社はそのことを報じました。小林陽太郎氏は44歳で富士ゼロックス社長に就任しましたが、その前年の1977年にアメリカ・コロラド州にあるアスペン研究所のセミナーに参加しました。そこでアメリカの企業家たちが、ただ単に企業経営のことを考えているのではなく、人間や社会に関する深い教養を身につけて、真剣に議論している姿を目の当たりにしました。
アスペン研究所のセミナーは、ハッチンズやアドラーの「グレート・ブックス」のリストに基づく基本的テキストを読んだ上で、20人前後の参加者がコーディネーターの指導の下で、6日間毎日ディスカッションを中心に展開していきます。
ディスカッションは毎日4冊の本や最近の論文を巡って、(1)人間の本質、(2)個人の権利と自由、(3)所有と生産性、(4)平等と社会性、(5)リーダーシップ、(6)コミュニティ、というテーマについて議論します。ディスカッションの合間には見学やスポーツや親睦の時がもたれます。
小林陽太郎氏は、やがて1998年に日本アスペン研究所を創立し、その会長となり、大学教育におけるリベラルアーツ教育の重要性を訴え、企業の人材育成や異業種交流にも尽力されました。2006年には本学人文社会研究所主催の特別講演会・シンポジウム「共生の時代の教育:リベラルアーツの可能性」の講演者となってくださいました。カトリックの信者でもありました。ご冥福をお祈りいたします。(山田 耕太)