学長室だより

エラスムス『平和の訴え』を読み返す

高速道路脇では至る所で、ねむの木の赤い花が咲き、月見草の黄色い花が咲いています。各地では、慰霊と鎮魂の意味を込めて、夏の夜空に花火が上げられています。

8月は改めて平和について考え、祈る月です。学生時代に買い求めたエラスムス『平和の訴え』の文庫本を久し振りに読んでみました。自然観察、ギリシア・ローマ古典、旧新約聖書、歴史に裏付けられ、当時の時代状況の中で生まれた「平和の神」の訴えは、時代と文化を越えて現代日本の政治社会の状況にもあてはまります。最後の訴えであり、祈りの一節を引用してみます。

「さらに私は訴えます、キリスト教徒の名に誇りをもつすべての人びとよ、心を一つに合わせて戦争反対の狼煙(のろし)をあげてください。民衆の協力が専制的な権力に対してどこまで抵抗する力があるか示してください。この目的のために各人はすべての知恵を持ち寄っていただきたいのです。自然が、それにもましてキリストが、あれほど多くの絆で結びつけた人間たちを、恒久的な和合が一体としてくれますように。そして、すべての人々が、すべての者の幸福に等しく関係する事がらの実現のために、共通の熱意をもって努力してくださるよう!」

2016.8.12学長ブログ

マセイス画「エラスムス」

 

エラスムスが校訂したギリシア語『校訂新約聖書』からルター訳のドイツ語聖書が誕生したことはよく知られています。昨年文庫版が出た『エラスムス=トマス・モア往復書簡』から、両者の友情の中でエラスムス『痴愚神礼讃』とモア『ユートピア』が出版され、それらがほぼ同時期に出版されたマキャベリ『君主論』に対抗していることを知りました。来年は宗教改革500周年の年ですが、これらの三著作が出版されたのは、宗教改革の直前でした。(山田 耕太)