学長室だより

2018年度卒業式式辞(山田耕太学長)

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卒業式で式辞を述べる山田学長

 

卒業生の皆さん、保護者の皆さん、大学ご卒業おめでとうございます。今年の冬は雪が少なく、庭先では一足早く梅が満開になっています。皆さんが新しい生活を始めるころには、桜が満開になっていることでしょう。
 
さて、卒業に至るまでの4年間の道のりを思い返すために、今から4年前の入学式のころの自分の姿を鏡で見るかのように思い起こしてみてください。他人と自分を比べるのではなく、高校を卒業したころの自分自身と現在の自分自身を比較してみてください。4年前の自分と現在の自分を比べると、知識の量や質においても、言葉や体、絵や映像、声や楽器、その他の手段を用いた表現力においても、コミュニケーション力やディスカッション力においても、他人との交渉力やプレゼンテーション力においても、消極的だった自分が見違えるほど積極的になり、進歩し、成長した跡が実感できるのではないでしょうか。

私も皆さん一人ひとりの顔を思い浮かべますと、それぞれの活動内容や活動領域は異なりますが、一人ひとりが大きく成長し飛躍した大学生活を過ごされたことを実感しています。皆さんの中には4年前の入学式で私が述べたことを覚えている人がいるかもしれません。すなわち、大学生活の4年間で、学科や学ぶ内容を越えて目指す目標は、精神的自立と経済的自立の2点だということでした。精神的な自立とは、自分らしく考えて、自分らしく生きていく、自分の考え方や生き方をはっきりとさせて確立していくことです。たくさんのレポートを書いたり、プレゼンテ―ションをしたりして、自分の考え方や生き方をはっきりさせてきました。経済的な自立とは、その考え方に基づいて職を得ていくことです。いよいよ第一段階の精神的な自立に基づいて、第二段階の経済的自立をする段階に入ってきました。そのはなむけに先ほど読んでいただいた聖書の言葉をお贈りしたいと思います。

来年2020年は東京オリンピックの年ですが、皆さんご存知のとおり近代オリンピックがクーベルタン男爵によって1896年アテネで再開されました。しかし、今から2700年前の紀元前776年から約1200年間にわたって4年に一度古代オリンピックがギリシアで開催されていました。フィリピ書の著者の使徒パウロは紀元51年ころの1年半コリントに宣教のために滞在していました。コリントでは古代オリンピックの開催される年とその間の年を含めて2年毎に、古代オリンピックの三地方大会の一つイストミア競技会が開催されていました。パウロがコリント滞在時にイストミア競技会が開催されたと思われます。

コリント書とフィリピ書にはアスリートの比喩がいくつか残されています。ここでは「スタディオン競争」という直線191メートルを走る短距離走を前提にして、いかに生きるかという比喩を語っています。

  「なすべきことはただ一つ、後ろのもの忘れ、前のものに全身を向けつつ、…
   目標を目指してひたすら走ることです。」(フィリピ3:13-14)

いかに生きるかということで重要なこと、すなわち「なすべきことはただ一つ」です。それは「後ろのもの」という短距離走の出発点スタートに象徴される「過去」を忘れ、「前のもの」という短距離走の決勝点ゴールに象徴される「将来」の「目標」を目指して、「ひたすら走ること」すなわち「一生懸命に生きること」という人生の秘訣が語られています。自分自身で自分自身の「目標」を設定して、その目標に至るまでの小さな課題を克服していくという生き方を勧めているのです。すなわち、アスリートをモデルにして、目標を設定し課題解決を目指す「プロジェクト型人間」の勧めです。

皆さんはこの春からまったく新しい環境と世界の中で、生きていくことになります。大学で身につけた情報を収集し、分析し、類推し、発信する手段にさらに磨きをかけて、一生学び続ける覚悟を持ってください。学ぶ内容は、小学校から大学の学校教育で学んできたこととは違う、自分の職業に関すること、顧客に関すること、社会に関することであるかもしれません。しかし、生涯学習社会で一生学び続けていく覚悟、自分で自分を教える覚悟をもって学び続けていってください。大学教育の学びの中での出会い、人々との出会い、社会の中での出会いで気づいた、自分自身の課題をさらに自分の中で育てていってください。できれば一生取り組んでいく「ライフ・ワーク」へと発展させていっていただきたいです。

結びに、「蛇のように賢く、鳩のように素直になりなさい」(マタイ10:16)というイエスの言葉にありますように、現実を直視すると同時に理想を失わない、という二つの目を併せてもつ複眼的な思考を持つことも心がけてください。皆さんの生涯が祝福されたものとなりますように、心からお祈りいたします。

2019年3月22日
敬和学園大学長 山田耕太