図書館だより

敬和学園大学 図書館だより(2007年8月号)

学生に推薦したい本 (国際文化学科 藤本 晃嗣

『知っていますか?日本の難民問題一問一答』 アムネスティ・インターナショナル日本編、解放出版社、2004年。

私が国際社会に初めて目を向ける機会をもったのは、中学生時代に新聞に掲載された「ハゲワシと少女」という写真でした。この写真のインパクトはすごい。飢餓で手足が細くなり、空腹でうずくまるスーダンの一人の少女を、動物の死肉を好んで食すハゲワシが見つめているのです。そのときの感情は、遠く日本から離れた場所では、自分よりも年下の子どもが生きるか死ぬかの環境で必死にその命をつないでいる、自分には何か出来ないだろうか・・・というものでした。それ以来、私は、自分の住居を戦争で焼かれて、食べることすらままならない「難民」とよばれる人々の存在を絶えず気にかけるようになり、国際社会に目を向けはじめるようになりました。
国際社会に目を向けるきっかけは何でも良いと思いますが、一番のお勧めはやはり新聞などの報道です。学生のみなさんは、新聞の文字数におっかなびっくりしていたかもしれませんが、講義で得た専門用語や知識が新聞にはたくさん書かれています。貪欲に報道に接することで、講義の内容を活かしてみてはどうでしょうか。国際社会に目を向けることは、日常の関心を自分だけに向けるのではなく、周囲に向ける訓練にもなりますし、なんといっても視野が広がることにもなります。学生の皆さんは、是非、きっかけを見つけてください。きっかけさえ見つかれば、あとは関心をもった問題のタイトルの書籍を大学の図書館や本屋で探してみましょう。
書籍を探すコツとしては、「やわらかい」、「ゆるい」タイトルのものをまず探すのが良いと思います。難しい専門書が並んだ本棚の中に、意外にそういった書籍が並べられているものです。その多くは初学者向けに書かれたものですが、最近は簡単な内容でまず読者の心をつかんで、その問題の奥へ読者を導いていってくれる良書が増えています。
今回、紹介させていただくのは、そういった良書の中でも、難民に関する初学者向けの書籍で、敬和の図書館にも所蔵されています。難民に関する報道は多く伝えられています。学生の皆さんが、こうした報道を探し出した後、本書に触れることを望んでいます。

さて、本書の紹介です。本書は難民に関心をもつ人であれば抱くであろう24の問いに一つ一つ答えていく一問一答式で構成されています。例えば、最初の問1は「難民ってどういう人たちのことですか?」というもので、この問いの答えに続いて、平易な文章で解説が加えられています。そして、解説は、「2003年末現在、日本で難民として認定された人の数は、・・・315人です」という文章でさらりと締めくくられています。この文章を読んで、「日本にも、祖国を脱出してきた人々が難民としているんだ」と思った読者は、すでに難民問題の扉を開きかけているといえるでしょう。本書は、こういった感想をもった人に対して、問7にいくよう指示しています。
では、問7に進んでみましょう。問7は、「難民は日本にもいるのですか?」というタイトルです。この疑問は、難民が日本から遠く離れたアフガニスタンやアフリカ大陸などにしかおらず、四方を海に囲まれた日本にまで脱出できないと思っている人にとっては、当然かもしれません。問7の解説では、日本に定住する難民としては、ベトナム戦争終結後、南ベトナムから逃れてきた「インドシナ難民」の数が最も多く、ついでミャンマー、イラン、アフガニスタンから逃れてきた難民も多いことが述べられています。また、これらの難民が、遠く離れた国々からなぜ日本にまでやってきたのかについては、問8の解説で詳しく述べられています。興味のある人は、実際にこの本を読んでみてください。

難民問題を考える上で、重要になってくるポイントは、避難先の国家がその人を難民として認め、保護するかどうかという点です。どの国家も例外なく、外国から逃れてくる人々全員を難民として認め、保護しているわけではないのです。この点については、問12「日本に難民としてきた人は全員、日本で暮らせますか?」で解説が加えられています。そこでは、1982年から2003年の22年間で、日本に対して難民としての保護を求めた人々の数が3118人であるのに対して、日本が難民として認めたのは315人、つまり難民認定率は約10%であると紹介されています。この認定率は諸外国と比較して、低いのか?高いのか?本書では、こういった読者の自発的な疑問に答えるため、資料やデータも豊富に掲載しています。この低いのか?高いのか?については、本書53頁の図3/表4を皆さんが実際に見て、判断するが良いと思います。

さて、はるばる日本まで逃れてきて、難民認定されなかった残りの90%の人々はその後どうなるのでしょうか。これは問14「申請が却下された難民申請者はどうなりますか?」で解説されています。そこでは、難民認定率10%がいかに、好ましくない結果を生んでいるかについて書かれています。つまり、難民認定を受けられなかった人は、迫害を受ける可能性がある自分の国へと強制的に送り帰されてしまうのです。では、日本は、難民認定率を上げるべきなのでしょうか?私個人としては、上げるべきだと考えています。現在、国際社会では1000万人に及ぶ人々が難民として、住居を追われ、祖国を追われています。そして、そうした難民を受け入れている国もありますが、大量の難民を受け入れれば、受入国にとっては、財政的にも社会的にも大きな負担になります。国際貢献を標榜する日本としては、そういった受入国の負担を軽くするためにも、もっと難民を受け入れるべきではないでしょうか?しかし、「難民の受け入れは、たんに滞在を認めるというだけにはとどまらず、日本語の習得、住居や医療、さらには就労など、さまざまな問題がかかわってきます。そして私たちも、日常生活のなかで彼らと接することがあるのです。支援にかかわるNGO、日常生活のなかでかかわる地方自治体、職場や学校において・・・(本書、「はじめに」より)。」国際貢献を言いっぱなしにしておくのは簡単なことなのですが、これを実行するにはそれなりの覚悟が必要です。みなさん、覚悟はありますか?

少し不安になった方は、日本でも難民問題に取り組んでいる団体に、インターンなどでお世話になってみてはいかがでしょう。日本に居ながらでも、国際社会を実感することができるかもしれません。そういった団体は、本書の問22と問24で紹介されています。
自分の周囲、そして国際社会に関心が移りはじめたら、その世界を少しのぞいてみたり、関わってみることも学生時代には大切なことです。そんなきっかけを与えてくれる良書と、学生のみなさんが多く出逢えることができればいいですね。