図書館だより

敬和学園大学 図書館だより(2012年1月号)

学生に推薦したい本(客員教授 外山 節子

『ダメな英語活動・よい英語活動』 渋谷徹著、明治図書、2010年。

2011年4月から小学校外国語活動が、5学年と6学年で、年間35時間正式に実施されるようになりました。文部科学省は「原則として英語を取り扱う」としているので、本書では「英語活動」と言及されています。
教育課程に新しい教科・分野が加わるときは、少なからず混乱が生じます。現場で何が起きているのか、現場の先生でも把握しきれないことが多いのです。渋谷先生は、本書で、文部科学省が提唱する「外国語活動」とは、どういうものであるかを解き明かしています。文部科学省は、小学校で英語のスキルを教えるようには言っていません。「コミュニケーション能力の素地を養う」のが大きな目標です。ところが、文部科学省が開発した教材である「英語ノート」及びその指導計画を忠実に実践すると、1~2回、モデル音声を聞いて、すぐに “Repeat after me.” と繰り返させ、その言語を使って子ども同士が対話をするという、PPP (Present, Practice, Produce)、つまり中学校英語の前倒し的な授業になってしまいます。また、小学校の先生への英語研修は殆どおこなわれていないので、多くの学校では、ALTや外部講師に授業が丸投げになっているという現状があります。
こんなことでは、せっかく小学校で英語活動が取り入れられたのに、将来英語をコミュニケーションの道具として使える日本人を育てることはできるでしょうか。渋谷先生は、本書で、教師自身が変革することを提唱しています。誰よりも学級の子どもを知り、子どもの興味の対象・子どもの知的好奇心がどこに向いているかを知っている担任教諭は、教え力を持っています。そこに英語力を足すことで、英語専門の教師がびっくりするような授業が生まれます。例えば、渋谷先生は、干支の漢字と動物の英語名から入って、日本はもともと24時間時計で時刻を言っていたことや、「午後・午前」の由来に気づかせるなど、英語教師では思いつかないような実践を数多くしています。

渋谷先生は、現在新潟市立新潟小学校勤務の現職の小学校教諭です。2011年7月9日の敬和学園大学児童英語教育セミナーで実践発表をして頂きました。もともと国語が専門で、NHKの「えいごリアン」のモニターをされたことがきっかけで、上記のような、言語中心ではなく、内容中心の英語活動を開発されるようになりました。また、「話す」ことより、「聞いて推測し、理解しようとする」子どもを育てることを目的として、授業の大部分を英語で行なっています。この実績が評価され、2007年には、新潟市初代マイスター教員に認定されました。
渋谷先生は「聞いて推測する」授業には、ビジュアルサポートが重要であることを力説します。例えば、色の三原色が混色するとどうなるかを扱うとき、ぶんぶんゴマを回して見せます。様々な機器も使います。子どもが興味を持ったピラミッドを、グーグル・アースを使って教室のホワイトボードに投影します。ピラミッドがいつ建造されたか、高さはどれくらいか、ということを平明な英語で話しかけます。子どもは、内容を知るために、英語を一生懸命聞き、理解しようとします。
大学生の皆さんは「子どものとき、こんな授業を受けたかったなあ」と思うことでしょう。教職課程で学んでいる皆さんならば、中学校や高校で、こんな授業ができたら!と心から思うことでしょう。そう、実は、この本は、小学校外国語活動にかかわる人だけでなく、中学校・高校の英語の先生にも読んでもらいたいのです。英語活動が、4 skillsの訓練に終わらず、学習者の全体的発達成長に寄与するものになる指針と実例がたくさん書かれています。
私は英語教材の著者として、韓国・台湾・タイで教師研修をしてきました。3学年から英語を教科として学習する子どもたちは、積極的に英語を使おうとします。日本の子どもにも、外国語を使うことに臆しないで成長してもらいたいと願っています。本書は、小学校外国語活動に関わる人の必読書と言えるでしょう。