学長室だより

ルツとナオミ・その13

ナオミはルツに求愛行為に近い行動をするように指示したのですが、細かな配慮を必要としていました。ルツは亡くなった息子の「妻」であるため、他の男性に不用意に近づくと姦通の疑念を抱かれてしまいます。それはルツにとって命取りになります。またレヴィラート婚を実現させるには、ボアズ以外に「責任のある人」がいる可能性があるからです。「縁続きの人」であれば誰でもよいというのではありません。エリメレクにより近い親戚が名乗りを上げる可能性があったからです。
古代オリエント世界では、恋愛から結婚に至るというのは例外でした。井戸端でラケルに出会ったヤコブの場合も例外でした(創世記29章9節以下)。ダビデに恋をしたサウル王の娘ミカルは、宮廷内で公的に彼に会う機会があったからですが(サムエル記上18章20節)、親が決めた縁談で人は結婚したのです。ヤコブもダビデもそうでした。
レヴィラート婚では本人の意志が重要でした。離縁し実家に戻るのでなければ、「妻」は町の門での裁判で再婚を要求できたのです(申命記25章5節以下)。彼女には提訴権が認められていました。指名された夫の兄弟を長老たちは説得することになりますが、気持がなければ彼も拒否できたのです(8節)。(鈴木 佳秀)