学長室だより

ダビデの物語・プロローグその5

食事の席から立ち上がり、神殿の前にでて「ハンナは悩み嘆いて主に祈り、激しく泣いた」(サムエル記上1章10節)と聖書は語ります。彼女は誓いを立てて祈っています。「万軍の主よ、はしための苦しみを御覧ください。はしために御心を留め、忘れることなく、男の子をお授けくださいますなら、その子の一生を主におささげし、その子の頭には決してかみそりを当てません」(11節)という言葉から、彼女の強い思いが伝わって来ます。
ペニナへの対抗心からでなく、主なる神が自分に祝福を閉ざしておられる事の意味を問い、涙ながらに訴えているのです。自分への祝福を求め、子供が授かりさえすればいいという祈りではありません。男の子を授けてくださるなら、その子の「頭には決してかみそりを当てません」と誓っているのは、生涯をささげて神に仕えるナジル人として(後述)、その子を育てますという意味です。「万軍の主」とは、天の軍勢を従えておられる唯一なる神ヤハウェという理解ですが、生命の創造者なる神に、自分を用いてくださいという、女性としての訴えなのです。
神の計画に与らせて下さいという彼女の祈りが、後に歴史を大きく転換させることになります。(鈴木 佳秀)