学長室だより

ダビデの物語・サウルの活躍その5

サムエル記はサムエルとサウルの出会いを語り始めます(上9章)。父が飼っていたろばが数頭姿を消したので、サウルは父の命を受け若者を伴い捜しに出掛けます。ベニヤミン部族の領域を越えてツフという町に来たときには、サウルは父がわれわれを気遣うから引き返そうと言い出します。しかし若者は「ちょうどこの町に神の人がおられます。尊敬されている人で、その方のおっしゃることは、何でもそのとおりになります」と答えるのです(6節)。若者の勧めに従いサウルはサムエルを訪ねることになります。
聖書はそこで「昔、イスラエルでは神託を求めに行くとき、先見者のところへ行くと言った。今日の預言者を昔は先見者と呼んでいた」と解説しています(9節)。このような注記があるのは、サムエルからサウルへ、ダビデへと指導者の変遷が辿られ、王国が始まった状況を回顧しているからです。歴史書が編纂されたのは王国が滅亡した紀元前6世紀とされていますが、モーセの律法(申命記法典)を基準に、なぜ王国は滅びることになったのかを証言するためです。王を要求する民の叫び、サムエルに語った神の言葉などは伝承に基づいていますが、滅亡の事実から王国全体の歴史を見据えているのです。(鈴木 佳秀)