学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その8

ゴリアトが英雄視されたのは、その人並み外れた体格と重装備によったのです。戦場で彼の姿を見れば、恐怖のあまり誰でも震えて逃げ出したでしょう。イスラエル側にゴリアトの挑戦を受けて立つ者はいたのでしょうか。「サウルとイスラエルの全軍は、このペリシテ人の言葉を聞いて恐れおののいた」と聖書は語ります(サムエル記上17章11節)。戦いの現場を経験した者は、装備に優れたゴリアトの力を知りすぎるため、腰が引けたと言えます。経験から来る思い込みが、精神的な妨げになったのです。
ダビデの兄たち三人はサウルに従軍していました。羊を飼うダビデに実戦の経験はありません。父の命で、彼は戦線にいる兄たちに炒り麦とパンを届けに向かいます。陣営に到着した時、鬨の声が聞こえたので、武具の番人に持参した物を託し、彼は兄たちの消息を尋ねるため戦列の方に走っていったというのです(12節~22節)。
ダビデが兄たちと話をしていたその時、ゴリアトが一騎打ちを挑んできました。人生には絶妙な神の時があるものです(コヘレトの言葉3章1節以下)。パンを届けに来るタイミングがずれていたら、ダビデが軍人として頭角を現すことはなかったでしょう。(鈴木 佳秀)