学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その16

「神からの悪霊が激しくサウルに降り、家の中で彼をものに取りつかれた状態に陥れた。ダビデは傍らでいつものように竪琴を奏でていた。サウルは、槍を手にしていたが、ダビデを壁に突き刺そうとして、その槍を振りかざした。ダビデは二度とも、身をかわした」(サムエル記上18章10節~11節)とあり、嫉妬心が王を狂わせ始めたことを聖書は語ります。油注がれたサウルも、かつては神の霊に捉えられ戦っていた英雄でした。しかし自分への神の選びを、霊が降ったときは何をしてもいいのだと思い違いをしていたため、思い通りにならない想定外の挫折を経験した時、神への不信感が芽生えたのです。猜疑心が原因で、神の霊は、彼を狂わせる悪霊でしかなくなったと言えます。嫉妬にかられた王がダビデを槍で突き殺そうとした出来事は、神に愛されている弟アベルを殺した、カインの物語を思わせます(創世記4章8節以下)。
神に用いられているという信仰がある間は精神的に快活であった人が、ひとたび不信感を抱いて嫉妬にかられ、神の寵愛を受けているダビデを殺そうとしたのは、自分は見棄てられたという思いがあったからでしょう。自分本位の信仰には落とし穴があるように思われます。(鈴木 佳秀)