学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その29

ダビデの名において使者は口上をナバルに伝えたのですが、「わが主ダビデはこう言われる。『〔わたしは〕あなたに平和、あなたの家に平和、あなたのものすべてに平和がありますように〔祈ります〕』」という様式で、ダビデの一人称で「わたしは」と語りかけたはずです。この様式はメッセンジャー・フォーミュラと呼ばれています。この様式が預言者によって用いられていることはよく知られています(「主はこう言われる。『わたしは……』」アモス書1章3節、6節、9節他多数)。言葉を忠実に伝える責務はもちろんですが、自分を遣わした主人の名代として使者は赴くのです。預言者もそうですが、派遣した主人のため、命をかけて尊厳ある使命を遂行しようとしたのです。
ナバルは使者にどのように対応したのでしょうか。「ダビデとは何者だ、エッサイの子とは何者だ。最近、主人のもとを逃げ出す奴隷が多くなった。わたしのパン、わたしの水、それに毛を刈る者にと準備した肉を取って素性の知れぬ者に与えろというのか」と応じ(サムエル記上25章10節~11節)、主人のもとから逃げ出した奴隷と言わんばかりにダビデを罵倒したのです。しかもイスラエルの構成員であるユダ部族の「エッサイの子」を「素性の知れぬ者」と言い放つことは、部族そのものへの侮蔑となります。(鈴木 佳秀)