学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その37

「サムエルはサウルに言った。『なぜわたしを呼び起こし、わたしを煩わすのか。』サウルは言った。『困り果てているのです。ペリシテ人が戦いを仕掛けているのに、神はわたしを離れ去り、もはや預言者によっても、夢によってもお答えになりません。あなたをお呼びしたのは、なすべき事を教えていただくためです。』サムエルは言った。『なぜわたしに尋ねるのか。主があなたを離れ去り、敵となられたのだ。主は、わたしを通して告げられた事を実行される。あなたの手から王国を引き裂き、あなたの隣人、ダビデにお与えになる。……主はあなたのみならず、イスラエルをもペリシテ人の手に渡される。明日、あなたとあなたの子らはわたしと共にいる。主はイスラエルの軍隊を、ペリシテ人の手に渡される。』」(サムエル記上28章15節~19節)
この場面は、実際のやりとりを描写しているものとは考えられません。口寄せの女もサウルも内容を詳細に証言するはずがないからです。サウルが口寄せの女に命じてサムエルを呼び起こすように依頼したことは事実であったとしても、やりとりは後代の歴史家の推測に他なりません。しかし限りなくサウルの現実に迫る内容です。神に見捨てられたサウルに、サムエルがイスラエルの敗北のみならずサウルとヨナタンの死を告知した、というのです。(鈴木 佳秀)