学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その38

「サウルはたちまち地面に倒れ伏してしまった。サムエルの言葉におびえたからである。また彼はこの日、何も食べていなかったため、力が尽きていたのである。」(サムエル記上28章20節)当時の軍人は、タブーを守るため、出陣するときには断食し、また女性を遠ざけていたのです(14章24節、21章6節)。彼がおびえて倒れ伏した事情は、現場にいなくても予測できることです。このような神託が下れば、誰でも恐れおののくからです。サウルをおびえさせたのは戦いに負けることだけでなく、自身の戦死とヨナタンの死を予告されたからと思われます。
「その女はサウルに近づき、サウルがおびえきっているのを見て、言った。『はしためはあなたの声に聞き従いました。命をかけて、あなたが言った言葉に聞き従ったのです。今度は、あなたがはしための声に聞き従ってください。ささやかな食事をあなたに差し上げますから、それを召し上がり、力をつけてお帰りください。』サウルは拒み、食べたくないと言った。しかし、家臣もその女も強く勧めたので、彼らの勧めに従い、地面から起き上がって、床の上に座った」と歴史家は伝えています(21節~23節)。彼らは食事をして夜のうちに立ち去ったのですが、口寄せの女の勧めで、サウルはタブーをも犯したことになります。(鈴木 佳秀)