学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その43

自害して果てたサウルですが、この英雄の悲劇はどこから始まったのでしょうか。油を注がれ王に推挙された若者が託された神からの使命を見失ったのは、神への畏れを忘れ、自分に任されていると勘違いして勝手に作戦を遂行したときでした。託された使命を誤解したのです。嫉妬で自制心を失ったときにそれは決定的になったと言えます。ダビデにも使命が与えられていたのですが、それを認めることができず、自分の立場を守ることのみを考えるようになったのです。王としての使命を野心や功名と混同し、手柄を妨害する者を排除する行動に出たのは、悲劇としか言いようがありません。神に見捨てられたと思ったサウルが、異教の口寄せに頼って戦いの行方を知ろうとしたのは哀れでした。
ダビデは、サウルを自分の剣で倒すことは考えませんでした。油注がれたサウルを神の選びに与った人と認めていたからです。ですから、偽ってサウルにとどめを刺したというアマレク人を神の御旨に敵対する者とみなし、討たせたのです。親友ヨナタンを失ったことにも、彼は深い悲しみを感じていました。弓矢で身の危険を知らせてくれたヨナタンと、互いに神の前で誓い合ったことを思い、彼は哀悼の歌を歌っています。それは「弓」と題されていたと伝えられています(サムエル記下1章17節~18節)。 (鈴木 佳秀)