学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その56

王となったダビデは、小都市ヘブロンを拠点にしてペリシテに対抗することは考えませんでした。戦略上の利点を考え、エブス人が住んでいた要塞都市を攻略しようとしたのです。「王とその兵はエルサレムに向かい、その地の住民のエブス人を攻めようとした。エブス人はダビデが町に入ることはできないと思い、ダビデに言った。『お前はここに入れまい。目の見えない者、足の不自由な者でも、お前を追い払うことは容易だ。』」(サムエル記下5章6節)。ダビデが攻撃の前に降伏を勧告したことは文脈から想定できますが、難攻不落なエルサレムの城壁をもってすれば、ダビデ軍を防げるとエブス人は考えたのです。
「しかしダビデはシオンの要害を陥れた。これがダビデの町である。そのとき、ダビデは言った。『エブス人を討とうとする者は皆、水くみのトンネルを通って町に入り、ダビデの命を憎むという足の不自由な者……を討て。』」(7節~8節)と歴史家は記しています。このメモ書きはフィクションだと考えられていました。しかし実際に水くみ用のトンネルが発見され、狭いトンネルを通って下から登って行くと、エルサレム城内に出ることが判明したのです。歴史家の説明通り、このトンネルを通っての征服が事実であることを裏付けています。エルサレムはこうしてダビデの町、王国の首都となったのです。(鈴木 佳秀)