学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その4

ダビデが王に即位し、エルサレムを占領して首都に定め、神の箱を運び上げた後、神殿を建てたいという願いを持つことは、部族連合から国家形成への道を辿っていることを意味します。遊牧民の伝統が都市国家の伝統にどのように適合されるのか、その点に、叙事詩の記者や後代の歴史家は注意を払っていると言えます。明らかに、ダビデはカナンの地の他の都市国家と同じ国家路線を取り始めているのです。ダビデの願いに、主なる神はナタンを通して託宣を与えています。「わたしの僕(しもべ)ダビデのもとに行って告げよ。主はこう言われる。あなたがわたしのために住むべき家を建てようと言うのか。わたしはイスラエルの子らをエジプトから導き上った日から今日に至るまで、家に住まず、天幕、すなわち幕屋を住みかとして歩んできた。わたしはイスラエルの子らと常に共に歩んできたが、その間、わたしの民イスラエルを牧するようにと命じたイスラエルの部族の一つにも、なぜわたしのためにレバノン杉の家を建てないのか、と言ったことがあろうか」(サムエル記下7章5節~7節)。イスラエルをエジプトから導き上った神ヤハウェは、定住民の神ではなかったのです。神殿に住まう神を神として礼拝するのは、古代メソポタミアでもカナンの地でも、定住民の神理解に根ざしたものでした。(鈴木 佳秀)