学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その34

「王はアブサロムに言った。『いや、わが子よ、全員で行くこともあるまい。お前の重荷になってはいけない。』アブサロムは懇願したが、ダビデは出かけることを望まず、ただ祝福を与えた。アブサロムは言った。『それなら、兄アムノンをわたしたちと共に行かせてください。』王は彼に、『なぜアムノンを同行させるのか』と言ったが、アブサロムが重ねて懇願したので、アムノンと王子全員をアブサロムに同行させた」(サムエル記下13章25節〜27節)とテキストは語ります。
「お前の重荷になってはいけない」という言葉から、アブサロムが牧草地を所有し羊を飼っていたことが分かります。羊の毛を刈る私的な饗宴に王を招待したのです。王が臨席するなら皇太子のアムノンも出席するはずですが、王は辞退してしまいました。ここで計画は挫折したのかもしれません。彼は王に重ねて懇願したのです。王の名代でアムノンの臨席を、と願い出たと考えられます。「アムノンと王子全員」という表現から、アムノンが王位継承者の地位にいたことは明白です。タマルの兄アブサロムが催す私的な饗宴など、アムノンは行きたくなかったでしょう。王が許可を与えたのです。自分の感情を度外視しても、アムノンは出席せざるを得なくなりました。ダビデが王としてアブサロムの懇願を受け入れたところに、事件の顛末(てんまつ)が象徴されています。(鈴木 佳秀)