学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その45

「アブサロムはエルサレムで二年間過ごしたが、王の前に出られなかった」(サムエル記下14章28節)とあるので、エルサレムへの帰還を認めたけれども、兄弟殺しについて王はまだ彼を赦していなかったことを物語っています。彼はどのようにしてこの状況を打開したのでしょうか。ヨアブに使者を派遣して彼と会おうとするのですが、無視されたようです(29節)。血の復讐が行われる危険があったため、恐らくエルサレムの自宅で禁足状態になっていたアブサロムは、部下に命じヨアブの麦畑に火を放ちます。抗議に来たヨアブに対し「わたしはお前に来てもらおうと使いをやった。お前を王のもとに送って、『何のためにわたしはゲシュルから帰ってきたのでしょうか、これではゲシュルにいた方がよかったのです』と伝えてもらいたかったのだ。王に会いたい。わたしに罪があるなら、死刑にするがよい」(32節)と怒りをぶつけています。「ヨアブは王のもとに行って報告した。王はアブサロムを呼び寄せ、アブサロムは王の前に出て、ひれ伏して礼をした。王はアブサロムに口づけした」(33節)と伝えています。これでアブサロムは王の恩赦を公的に獲得したのです。亡命先から自宅に戻っても、皇太子としての地位を回復できずにいたのです。皇太子に復帰したことは、誰もアブサロムに手出しをすることができなくなったことを意味します。これですべてが終わったのでしょうか。事件は別の展開をみることになります。(鈴木 佳秀)