学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その51

「王はツァドクに言った。『神の箱は都に戻しなさい。わたしが主の御心に適うのであれば、主はわたしを連れ戻し、神の箱とその住む所とを見せてくださるだろう。主がわたしを愛さないと言われるときは、どうかその良いと思われることをわたしに対してなさるように。』王は祭司ツァドクに向かって言葉を続けた。『分かったか。平和にエルサレムに戻ってもらいたい。息子のアヒマアツとアビアタルの子ヨナタン、この二人の若者を連れて帰りなさい。分かったか。わたしはあなたたちからの知らせを受けるまで、荒れ野の渡し場で待っている。』ツァドクとアビアタルは神の箱と共にエルサレムに戻り、そこにとどまった。」(サムエル記下15章25節〜29節)
かつて戦場に担ぎ出された神の箱については、陣営を守り勝利を与えてくれるという「信仰」があったのですが(上4章)、ダビデはそれをエルサレムに戻すよう命じ、神を戦いに利用しませんでした。「主がわたしを愛さないと言われるときは、どうかその良いと思われることをわたしに対してなさるように」と語る言葉に、神を畏れる姿勢が表れています。バト・シェバ事件の後、「剣はとこしえにあなたの家から去らないであろう」(下12章10節)と預言者ナタンによって伝えられた神の言葉が、ダビデの心から消え去ることはなかったと言えます。神を後ろ盾に、息子と戦うことなどできなかったのです。神の御心に自分を委ねているダビデの姿が描かれています。(鈴木 佳秀)