学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その61

「アブサロムも、どのイスラエル人も、アルキ人フシャイの提案がアヒトフェルの提案にまさると思った。アヒトフェルの優れた提案が捨てられ、アブサロムに災いがくだることを主が定められたからである。」(サムエル記下17章14節)とあるように、場面はフシャイの狙いどおりに展開したのである。「アヒトフェルの優れた提案が捨てられ、アブサロムに災いがくだることを主が定められたからである」という見方は、資料記者による事後の判断で、結末からこの時の宮廷内の状況に遡って語っている解説に他なりません。
「フシャイは祭司ツァドクとアビアタルに言った。『アヒトフェルはアブサロムとイスラエルの長老たちにこれこれの提案をしたが、わたしはこれこれの提案をした。急いで、使者をダビデに送り、こう告げなさい。荒れ野の渡し場で夜を過ごさず、渡ってしまわなければなりません。王と王に従う兵士が全滅することのないように。』」(15節〜16節)と伝え、ダビデ軍が滅ぼされるかもしれない危機から、フシャイの提案が救うことになったのです。それは「主が定められたからである」と後代の人が感じるほど、ドラマの流れがここで逆転したのです。
「もし……であったならば」という発想で歴史的展開を予想することは可能ですが、結果まで変えることはできません。しかしアブサロムに迷いがなかったなら、アヒトフェルの提言どおりダビデ軍を打ち破り、ダビデ王位継承史はその時点で完結していたはずです。(鈴木 佳秀)