学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その72

「ダビデは二つの城門の間に座っていた。城壁に沿った城門の屋根には、見張りが上って目を上げ、男がただ一人走って来るのを見た。見張りは王に呼びかけて知らせた。王は、『一人だけならば良い知らせをもたらすだろう』と言った。その男が近づいて来たとき、見張りはもう一人の男が走って来るのに気がつき、門衛に呼びかけて言った。『また一人で走って来る者がいます。』王は、『これもまた良い知らせだ』と言った。見張りは、『最初の人の走り方はツァドクの子アヒマアツの走り方のように見えます』と言った。王は、『良い男だ。良い知らせなので来たのだろう』と言った。」(サムエル記下18章24節〜27節)
王座でなくダビデが城門に座していたことは、彼の気持ちを痛切に物語っています。自分の軍隊が勝利すること以上に、王位を奪い取った息子アブサロムのことに心を砕いていたからです。彼の妹タマルは自分の娘です。彼女が陵辱された事件を放置しアムノンを処罰しなかったことが、争乱の原因となったことを父親として知らないわけはありません。骨の髄まで分かっていたのです。伝令が一人なら良い知らせだと言うのですが、もう一人走って来ると聞いても、いずれも良い知らせだと言っています。気持ちが揺れていたのです。吉報であることを願いながら、それはアブサロムが無事であることと繋がらないからです。訃報になる可能性もありました。アヒマアツの名を聞いて、良い男だ、良い知らせなので来たのだろうと言ったのは、良い知らせしか求めていなかったのです。(鈴木 佳秀)