学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その74

「王が、『脇に寄って、立っていなさい』と命じたので、アヒマアツは脇に寄り、そこに立った。そこへクシュ人が到着した。彼は言った。『主君、王よ、良い知らせをお聞きください。主は、今日あなたに逆らって立った者どもの手からあなたを救ってくださいました。』王はクシュ人に、『若者アブサロムは無事か』と尋ねた。クシュ人は答えた。『主君、王の敵、あなたに危害を与えようと逆らって立った者はことごとく、あの若者のようになりますように。』ダビデは身を震わせ、城門の上の部屋に上って泣いた。彼は上りながらこう言った。『わたしの息子アブサロムよ、わたしの息子よ。わたしの息子アブサロムよ、わたしがお前に代わって死ねばよかった。アブサロム、わたしの息子よ、わたしの息子よ。』」(サムエル記下18章30節〜19章1節)
クシュ人もアヒマアツも、王の心配について知るよしもなかったのです。ヨアブがクシュ人を伝令として選んだ狙いは成功したのでしょうか。事柄を事実として報告したからです。どれほど王が衝撃を受けたかについては、叙事詩が語るとおりです。原文には、父ダビデの慟哭が伝わってくる響きがあります。身を震わせて息子の名を呼び続ける父の姿を伝えていますが、この親子の悲劇、父親の悲しみを冷静に物語っています。「わたしがお前に代わって死ねばよかった」という心の叫びを、側近の部下が聞き取っていたのです。(鈴木 佳秀)