学長室だより

試験突破の戦略

夏休み前に渡米したのは資料を読むためでした。宣言どおり、翌日から一日十時間の勉強を課して実行しました。関根先生の言葉を背中に、図書館にこもってメモを取りつつ文献を読みました。年に三回しか試験がないので、戦略を立てて臨むことにしたのです。一回目は、執筆がすぐにでも出来る科目を四つ選びました。新約聖書、旧約聖書、組織神学、ドイツ語です。二回目は、教会史、フランス語、哲学、そして三回目に、倫理学、宗教學、神学・宗教思想史という計画を立てました。ひとつも落とせないので、集約的に読書して臨むことにしたのです。
学期が始まりました。演習の準備をしながら、一回目の試験に臨んだのです。のっぽのアメリカ人学生二五人が、旧約聖書学のPh.D.コースに在籍していました。日本人に聖書が分かるのか、と幾度となく聞かれました。ザビエルによって日本にキリスト教が伝えられたのは一五四九年で、日本人の手で日本語訳聖書が完成したのが二十世紀に入る直前でしたと話をすると、目を丸くしていました。一回目のテストでは、新入生は誰も合格しないよ、二回目くらいに一つか二つ合格するのが普通だ、そう言ってわたくしを慰めてくれるのです。日本の大学院で学んできた者として、アメリカ人の院生に負けるつもりはありませんでした。
心に期するものがありました。最初の挑戦で四科目すべて合格したのです。合格者リストが掲示されたその前に、人だかりが出来ていました。彼らのわたくしを見る目が変わったのです。(鈴木 佳秀)