学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その94

「アドニヤに招かれた客は皆、震えながら立ち上がり、それぞれ帰途についた。アドニヤもソロモンを恐れ、立って行き、祭壇の角をつかんだ。この知らせがソロモンに伝えられた。『アドニヤはソロモン王を恐れ、祭壇の角をつかんで言っています。「この僕を剣にかけて殺すことはないと今日ソロモン王に誓っていただきたい」と』。ソロモンは言った。『彼が潔くふるまえば髪の毛一筋さえ地に落ちることはない。しかし、彼に悪が見つかれば死なねばならない。』ソロモン王は人を遣わしてアドニヤを祭壇から下ろさせた。アドニヤがソロモン王の前に出てひれ伏すと、ソロモン王は、『家に帰るがよい』と言った。」(列王記上1章49節〜53節)
食事を終えたばかりのタイミングでソロモンの即位を聞き、客たちは震え上がったというのです。予期せぬ事態でした。アドニヤが「祭壇の角をつかんだ」とあるのは、祭壇の四隅に上向きに尖った部位が「角」と呼ばれていたのです(出エジプト記27章2節、30章3節、37章25節、38章2節)。犠牲用祭壇か、薫香用祭壇かは明示されていません。この角に贖罪の機能が認められていたと言われています(レビ記4章13節〜35節)。アドニヤがエルサレム聖所の祭壇の角をつかんだことは考えられません。その可能性は遮断されていたからです。彼は北にあるシケムの聖所まで逃げたのでしょう。異母弟のソロモンが王に即位したことで、助命を願い生きようとしたのです。父の意向に沿わない形で即位式を強行したアドニヤは、処刑される恐れがあったからです。ソロモンに平伏することで処罰を免れた彼は、どう生きようとするのでしょうか。(鈴木 佳秀)