学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その95

「死期が近づいたとき、ダビデはこう言って王子ソロモンを戒めた。『わたしはこの世のすべての者がたどる道を行こうとしている。あなたは勇ましく雄々しくあれ。あなたの神、主の務めを守ってその道を歩み、モーセの律法に記されているとおり、主の掟と戒めと法と定めを守れ。そうすれば、あなたは何を行っても、どこに向かっても、良い成果を上げることができる。また主は、わたしについて告げてくださったこと、「あなたの子孫が自分の歩む道に留意し、まことをもって、心を尽くし、魂を尽くしてわたしの道を歩むなら、イスラエルの王座につく者が断たれることはない」という約束を守ってくださるであろう。』」(列王記上2章1節〜4節)
死期が迫っているのを感じたダビデ王は、ソロモンに遺言を語って聞かせています。その前半は王室の伝承に遡るものと考えられますが、長い後半部分は、申命記史書(申命記から列王記まで)を編纂した前6世紀の申命記史家に由来するものと思われます。「主の掟と戒めと法と定めを守れ」という言葉や「心を尽くし、魂を尽くしてわたしの道を歩むなら」という表現は、申命記法典を編纂した者たちが伝えたモーセの律法(申命記10章12節〜13節、17章18節〜20節)に近似しているからです。滅亡後、彼らは王国の歴史を回顧しているのですが、ダビデ王が神ヤハウェに忠実に生きたことを想起しつつ、ソロモン以後の歴代の王について、モーセの律法(申命記法典)に即して、神に忠実であったかどうかを解釈の基礎にすえ、なぜ王国は滅びたのかを見ているのです。(鈴木 佳秀)