学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その98

「ダビデは先祖と共に眠りにつき、ダビデの町に葬られた。ダビデがイスラエルの王であった期間は四十年に及んだ。彼はヘブロンで七年、エルサレムで三十三年間王位にあった。」(列王記上2章10節〜11節)
ダビデ王の死を簡潔に報じているのが分かります。歴史家のメモ書きなのですが、ここで「ダビデ王位継承史」が終わる、と考えるのが自然かもしれません。しかしここで終わっているのではないのです。「ダビデ王位継承史」は、ダビデという英雄あるいは偉人とも言える人物を主人公に、彼の生涯をたどるという設定ではないからです。もちろんダビデが実質的に初代の王になった事実を踏まえて、宮廷内のドラマを描きつつ、そのダビデの王座が誰に引き継がれるかに焦点があるのは事実なのですが、後代の歴史家(申命記史家)にとって、ある個人の人物史に関心があったのではなく、イスラエルの歴史に登場した王国という機構、国家が果たした意味について、ダビデにまで遡って語ろうとしているのです。王室のスキャンダルですら赤裸々に描いているのは、そこに重大な問いが想定されているからです。ダビデは神の選びに与った「油を注がれた」王ですが、彼から始まったその王国がなぜ滅びるに至ったのか。これは歴史家が放った神義論的な問いです。王の死後にまで言及するのは、神の選びについての問いがあるからです。「ダビデ王位継承史」は、ダビデの遺言がどのように実施されたのかというところまで言い及んでいると考えるのが自然なのです。(鈴木 佳秀)