学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史 最終回

「更に王はシムイにこう言った。『お前はわたしの父ダビデに対して行ったすべての悪を知っているはずだ。お前の心はそれを知っている。主がお前の悪の報いをお前自身の頭にもたらしてくださるように。しかし、ソロモン王は祝福され、ダビデの王座はとこしえに主の御前にあって揺らぐことのないように。』王がヨヤダの子ベナヤに命じたので、彼は出て行ってシムイを打ち殺した。こうして王国はソロモンの手によって揺るぎないものとなった。」(列王記上2章44節〜46節)父ダビデが恩赦を与えたシムイにソロモンは猶予を与えたのですが、本人がその恩恵を軽く見ていたことは明らかです。ダビデ王を呪ったことがどのような意味を帯びているのかを理解していなかった、と考えられます。「主がお前の悪の報いをお前自身の頭にもたらしてくださるように」という言葉は、呪いではなく、神に裁きを委ねる言葉です。だが続く「しかしソロモン王は祝福され、……とこしえに主の御前にあって揺らぐことのないように」という宣言は、自分に祝福があるようにという内容ですから、理解に苦しむ人もいるかもしれません。後代の歴史家が添えた言葉である可能性が濃厚です。ダビデ王位継承史が「こうして王国はソロモンの手によって揺るぎないものとなった」という宣言で終わっているからです。シムイの処刑で権力闘争の結末を語り、王位継承のドラマを終えていることが重要です。歴史家はそれを礼賛しているのではないのです。(鈴木 佳秀)