学長室だより

ワードプロセッサーの衝撃・その2

東芝ルポが発表されてから、瞬く間にいろいろな会社がワープロ専用機を開発して発売しました。画面が細い横長から四角になり、テレビ画面に近づいてきました。しかしあまりに高額で、個人では手に入りません。忍耐の日が続きました。こうした機械好きの研究者が数名集まって、相談し、共同で研究費を出資して買うことを決め、合同研究室に1台購入したときは感激でした。互いに時間を融通しながら使うことにしたのです。提出する論文を、時間を忘れて打ち込んだ記憶があります。プリンターが大きすぎて、置き場所に困ったのですが、そのうち、プリンターを組み込んだ機種が発売され、価格も大幅に下げられました。まだ大きなディスクを挿入して、記録するという時代です。2年後には、自分の研究費で購入できる時代となりました。書籍を購入するのを断念した上で、思いきってワープロを購入し、自分の研究室で文字を打ち始めたときの興奮は、今でも残っています。
タイミング良く、学位論文を出版する話が持ち上がっていたので、ワープロで、しかもA4サイズの縦書きの原稿を、夢中で執筆したのです。800頁に近いものを、推敲を重ね、寝食を忘れたかのように打ち続けました。「わたしの時代が来た」という実感を、そのまま体現する瞬間でした。出版社に原稿を送付するのに、ディスクと共に、印字した800頁の原稿をそのまま郵送するわけにはいかないので、製本した形にして郵送しました。発送したときには、思わず、感謝の祈りを捧げたほどでした。感激でした。
出版局から驚きの葉書が届いたのです。既に本になっていました、と。(鈴木 佳秀)