学長室だより

パレスチナに思いを寄せる

1年次生対象の授業2コマを使って、写真家の高橋美香さんをお招きしてボランティアセミナーが開催されました。第1部講演「パレスチナに生きるふたり ママとマハ」では、高橋さんがヨルダン川西岸地区のジェニン難民キャンプ内の家族の13年間を、たくさんの写真を見せながらお話しくださいました。以前はとてもフレンドリーだったパレスチナの人々から、イスラエル軍侵攻(2002年)後の2009年に取材を申し込んだ時に、「世界はテレビで見ているだけで、何もしてくれなかった」と厳しい言葉を浴びせられたことから話し始め、髙橋さんが居候した家族のとにかく働き者のお母さん、家族や友だち思いの子どもたちの日常を襲う辛いできごとの数々を紹介されました。理由もなく家や道路を破壊され、連行されて拷問を受け、家の前で遊んでいただけの子どもまでもが殺されるという日々の中で、それでも生きていくために破壊された道路を直し、裏庭にオリーブやレモンの木を植え、鶏を飼う日々。20歳そこそこの若者が死を覚悟して武装抵抗組織に加入し殺される日々。戦争が日常に入り込んでいる現実を知ることができました。パレスチナは日本から距離的に遠いだけでなく、民族・宗教・歴史の複雑性によって多くの人にとって心理的にも遠い国になっているかと思います。しかしパレスチナの一家族とそれにつながる人々の姿からは、やさしくて、私たちと同じように平和を望んでいることが伝わってきます。高橋さんは、自著に「いつかみんなでお茶を飲もう」とサインしてくださいました。出かける子どもの背を見て親が「今日この子が殺されることのないように」と祈る日々が終わり、お母さん同士でゆっくりお茶を飲める日がどんなに尊いものであるか、講演と同名の著書からも伝わってきました。

第2部パネルディスカッション「パレスチナ問題とは何か」では、田中利光教授が「イスラエルとパレスチナの関係」と題してディアスポラのユダヤ人とアラブ人の起源にさかのぼって古代の複雑な歴史や民族、シオニズムについて解き明かされ、日本のNGOや企業によるパレスチナ支援についても紹介くださいました。ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラーム教徒が初めから仲が悪かったわけでなく、イスラーム教徒がユダヤ人を招き共存していたという事実にかすかな希望を抱きました。続いて富川尚教授の「パレスチナ・イスラエル紛争と国際社会のジレンマ~ダブルスタンダードの緩和を目指して~」では、民族意識と国際社会に軸を置き、ヨーロッパ諸国が関与することで複雑化し、解きほぐすことが困難になった現状と国際社会のさまざまな見方と介入についての解説があり、この問題の難しさにうなりました。最後に英語文化コミュニケーション学科4年の今野善江さんからは「パレスチナ問題とは何か -自分たちにできること-」と題して、これまでの活動と今後の展望についての報告がありました。

セミナーで戦争がどういうことか想像することはできたと思います。グローバル化が進んだことでナショナリズムも勢いを増しています。振り子はグローバル化とナショナリズムの両極の間を行き来し、大局的に考えるべき政治家でありながら「自国・自分の町ファースト」と言ってはばからない人たちが現れています。私たちにできることは限られていても、今世界で起きていることを多角的な視点から学びつつ人が幸せになる平和を願って、パレスチナやウクライナに思いを寄せ続けることが大切だと思います。(金山 愛子)

たくさんの学生がボランティアセミナーに参加しました