IPOのトップページに戻る IPOとは? Photo Gallary お問合せ リンク集  
国際哲学オリンピアード 日本語:PDE Inter-University オンラインドキュメント
英語:PDE on-line philosophical archives library
  >> オンラインドキュメント >> 第十回IPO開催-毎日新聞の記事-
敬和学園大学公式ホームページへ
高校生が「知」を競う 国際哲学オリンピアード日本で開催
 

 日本、取り組みの遅れ痛感
−普遍的な価値観の形成が必要 −

世界の高校生たちの哲学エッセー・コンテスト、国際哲学オリンピアード第10回大会(毎日新聞社、国際哲学連盟後援)が5月に東京国連大学で開催された。日本で初めての開催。民族や国家の壁を越え高校生同士が交流を深めたが、21世紀の人類がかかえる多くの問題解決のための哲学教育の重要性と、日本における取り組みの遅さを考えさせられた。【荒井魏】

国際哲学オリンピアードは、1993年にブルガリアで始まった。2度にわたる大戦、ナチスの後遺症などの残るヨーロッパ。平和な社会、世界創造のため、若者たちに哲学的思考を深めてほしい、との趣旨で始まった国際的哲学運動である。参加する高校生たちは母国語以外の言語(英独仏のいずれか)で、与えられた哲学テーマについてのエッセーを約4時間かけて書き上げ、その優劣を競う。参加高校生同士の討議なども活発に行われる。

今大会は、韓国、ロシアなどが初参加。計15カ国約40人の高校生(日本からは5人)が参加した。コンテストではプラトンの著述に関してなどが出題課題となったため、現代社会の生のテーマはあまり取り上げられなかったが、印象深かったのは数グループに分かれての自由討論交流の場であった。

昨年の9月の米国テロ事件でのショックは大きかったようで、異文化、宗教の壁を越え、いかに平和な未来を築くかなど熱心な討論が繰り広げられた。大会会長を務めた延原時行・敬和学園大学教授は「大会後、海外の高校生から討論などを通じて国境を越えた友人がたくさんでき、ずっと東京にいたかった、などとメールが届いた。平和な日本と、そうではない国の高校生たちが同じ地球の将来を語り合った国際的友情が、大きな成果と思う」と語る。

コンテストでは、論理的一貫性、オリジナリティー、哲学知識の豊かさなどが審査の大きなポイントとなるが、海外の参加高校生の実力は目を見張るものがあったという。

同大会日本組織委員会委員の橋本典子・青山学院女子短期大学教授は「論理方法、一貫性、哲学の確実な知識など日本の大学3年生くらいの力をもっている。日本の大学生に高校の時『ソクラテスの弁明』を読んだことのある人と質問しても1割もいませんが、古代ギリシャから始まって哲学の通史的なものは、皆頭に入っているようです」と、驚いていた。

参加した日本の高校生たちも健闘したが、英語力がやはり厚い壁となったようである。ただ、日本の英語教育の問題以上に、哲学教育の遅れを改めて痛感もさせられた。同委員会委員長の北垣宗治・敬和学園大学長は「高校の教育カリキュラムに哲学が入っていないというのは、恐るべき欠陥。4時間かけて哲学論文を書ける高校生が出てくれば日本も大きく変わるのではないか。コンピューターだけではだめ」と嘆く。

日本の高校では、「公民」の中の科目として「倫理」はあるが、哲学はない。ヨーロッパでは、初等教育でさえ科目として哲学を一般的に教えているのに比べると、かなりの遅れと言える。大会初参加の韓国でも、日本と同じく高校で哲学がカリキュラムに入っていない。

韓国の高校生2人を連れて参加した梨花女子大の李智愛博士も「韓国でも高校教育はいかにいい大学に行くかが中心で、哲学テーマがないことが残念だ。現代社会は科学技術的なことばかりしか考えられていないが、私たちはもっとヒューマニティーとか基本的な人間的価値観を学ぶべきだ。そのためには哲学を中心とした基礎教育が急務。オリンピアードは高校生ばかりでなく、教育者側をも刺激する意味で意義深いと思っている」と、語っていた。

ロシアの高校教師からは「今はロシアではマルキシズムは一部の人の哲学で、私たちはロシア全体の共通の考えを求めるため哲学が大事になっている」との声を聞いた。

小和田恒・日本国際問題研究所理事長は「人類の未来には公正の概念が必要。それはヒューマニズムをベースとした新しい国際社会の普遍的な価値観を反映するものでなければならない」と講演したが、いろいろな問題をかかえる国ほど、普遍的な価値観を哲学に求め始めている。日本の哲学教育の遅れは、平和に安住し切っている一つの証拠でもあろうか。

(毎日新聞2002年6月7日東京夕刊から)

 
前のページに戻るこのページの先頭へ
2003 国際哲学オリンピアード-第十回大会事務局 敬和学園大学-. All rights reserved.