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PDE Inter-Universityニューズレター:第十号
  目次
 PDE Inter-Universityニューズレター:第十号(2005年6月1日)
“第13回 国際哲学オリンピアードに参加して”
 Topics for the Essay Contest at the 13th International Philosophy Olympiad
Warsaw, May 20, 2005
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PDE Inter-Universityニューズレター:第十号(2005年6月1日)

“第13回 国際哲学オリンピアードに参加して”

IPO日本国内委員 北垣宗治

□ はじめに

第13回国際哲学オリンピアード(XIII International Philosophy Olympiad 略称IPO)は 2005年5月19日から 22日まで、ポーランドの首都ワルシャワで開催され、私は11人の志願者の中から「選手」として選ばれた二人の日本人高校生の引率と監督を兼ね、出席した。



参加国と参加人数

今回の参加国は16か国(アルジェンチン、オーストリア、ブルガリア、エストニア、フィンランド、ドイツ、ハンガリー、イタリア、イスラエル、日本、韓国、リトワニア、ノルウエー、ポーランド、ルーマニア、トルコ)で、「選手」である高校生の人数は39人、各国代表・付き添い教員の数は30人であった。



□ イベントの内容

発会式は5月19日午後7時から、ワルシャワ旧市街の中央広場の近くに位地する「ワルシャワ文化教育センター」(略称SCEK)で行われ、主催者であるポーランドのIPO会長 Dr. Jozef Niznik による歓迎の辞に続いて、来賓の紹介があり、日本国大使の代理として出席された在ポーランド日本大使館の高橋了・一等書記官も来賓として紹介された。次に一般の参加者が上記の国名順(英語国名のアルファベット順)に壇上に上がり、挨拶と自己紹介をした。続いて主題講演に移り、ポーランド科学アカデミーの副会長である Jacek Holowka 教授が、 “Philosophy and Dialogue Between Cultures” という主題のもとに、約40分間の講演をした。これは21日の workshop のためのイントロダクションであった。

イベントの中心は20日の午前9時から午後1時にかけて行われたエッセイ・ライティングであった。高校生たちはホテルからバスで市内の高等学校に誘導され、人数分のパソコンの用意されている一室において、4時間かけて、与えられた四つの引用文の一つに関して、外国語で哲学的なエッセイを書くことを求められた。今回出題された文章はこの報告の末尾に添付した。このうちの一題は日本委員会が出題したものである。

21日の行事として、生徒たちは午前と午後、四つの小グループに分かれて workshop を行い、19日の Holowka 教授の主題講演を、”Liberation and Cultural Rights,” “Tradition and Universalism,” “Dialogue and Domination,” “Assimilation and Isolation” というサブテーマのもとに議論し、午後のセッションで各小グループが報告を行った。

他方教員たちは前日の午後3時から、生徒たちの書いた無記名のエッセイを手分けして精読し、ルールに従って評価点を出す作業を続けてきた。21日にもその作業を続け、生徒全員に対する評価を確認し、最終段階では熱い議論の末に入賞者を決定した。

22日の午前10時、会場をポーランド科学アカデミーの Staszic Palace (コペルニクス像がその前に立っている由緒ある美しい宮殿)の講堂に移し、閉会式が行われた。大使が出席した国もあった。日本は高橋一等書記官の夫人が代理出席された。

閉会式で発表されたのは、金メダル3人、銀メダル3人、銅メダル5人、選外佳作3人という結果であった。受賞者とその国をみると、金はポーランド2,ルーマニア1,銀はポーランド、フィンランド、ルーマニア各1,銅はオーストリア1,アルジェンチン1,韓国2,イタリア1,選外佳作はイタリア1,ポーランド2で、残念ながら日本の選手たちはメダルに手が届かなかった。

第14回国際哲学おリンピアードは2006年5月にイタリアの Cosenza にあるUniversity of Calabria を会場として実施されることが公表された。なお第15回の名乗りをあげているのはトルコで、その会場は Antalya となる予定である。

閉会式ではユネスコを代表してMoufida Goucha 女史(Chief of the Section of Philosophy and Human Sciences of UNESCO)が挨拶した。

この閉会式とリセプションののち、各国代表は別室に集まり、ガウチャ女史を囲んで懇談の時を持った。女史はユネスコの哲学人文学部門がどういう点に強調点を置いているかについて説明し、国際哲学オリンピアードは青少年の間に哲学に対する関心を引き起こすよい機会であり、ユネスコとしてできるだけ支援したい運動であると公的に考えていることを表明した。それぞれの国での予選がさかんになることが望ましいことは当然である。出席した各国の委員は、IPOが国内的にも、国際的にも、ユネスコの支援に期待することことが大きいことを口々に表明した。



反省と展望

コンテストにおける日本選手が入賞を逸したことの主な理由は、哲学が高校のカリキュラムに入っていないこと、従って日本の高校生には哲学的に物を考える訓練を受けていないことである。韓国でも日本と同様、哲学は高校のカリキュラムに入っていない。にもかかわらず韓国の選手二人が入賞したのは、彼らが大変なエリート校から特別に選ばれた選手だったことによるようである。ポーランドとルーマニアの健闘ぶりが目立つ。ルーマニアでは国内予選を半年前に終わり、IPO出場が内定した生徒たちのために、毎週末に特別な訓練をほどこしているとのことであった。

西田幾太郎や鈴木大拙を出した日本は決して哲学の後進国ではない。しかし、哲学は大学生になってから教室で学ぶことのできる分野であるとして、高校段階で無視している現状では、グローバル化した世界の中で、日本人は知的に遅れているという印象を与えかねない。今回金メダルを獲得したポーランドの高校生はニーチェを論じるにあたり、エーリッヒ・フロム、フロイト、プラトンからきちんと引用しつつ、議論を展開していた。日頃の知的訓練を経ずにはとても達成できないような出来ばえであった。

本年国内予選で好成績をあげて出場したのは創価高等学校3年生の須山朋美と、2年生の小林恵美子であった。二人は積極的に外国の高校生と友情を深め、ホスト国代表である Dr. Niznik から、その率直さ、物怖じしない態度、友好的な姿勢について、私は直接に称賛の言葉を受けた。また二人は今回の出場がいかに大きな知的刺激となったか、そして哲学を学ぶことへいかに新たな意欲を掻き立てられたかを、繰り返し断言して止まなかった。

日本は来年の出場に備えて、2005年12月中には国内予選を終え、1月から4月にかけて、週末の特訓を重ねるだけの覚悟が必要である。通信教育も有効であろう。そういう訓練にボランティアとして参加してくれそうな大学ないし高校の教員を見出すことは、かならずしも困難ではないと確信する。国内選考に要する若干の費用、二人の選手と二人の教員をイタリアに派遣するための予算を確保することが、2006年の第14回国際哲学おリンピアードに備えて、緊急を要する課題であると痛感している。



 
 

Topics for the Essay Contest
at the 13th International Philosophy Olympiad
Warsaw, May 20, 2005

T

If I had to choose between betraying my country and betraying my friend, I hope I should have the guts to betray my country.(E. M. Forster, “What I Believe” )

U

Today, the truth is dispersed across many universes of discourse which can no longer be arranged in a hierarchy. However, in each of these discourses, we search tenaciously for insights that can convince all.
(Jurgen Habermas, “Sinn und Form” Nov./Dec. 1989)

V

Hedonism, pessimism, utilitarianism, eudemonism---all these systems that measure the value of things taking into account the pleasure or pain that go along with them, that is to say, according to any non-core condition or facts, are seen as if they do not go in depth and being naive. Any man with his constructive faculty in place and a conscience of an artist, can only regard this with irony and pity from a distance.
(Friedrich Nietzsche, “Beyond Good and Evil,” 1886)

W

Language is a labyrinth of paths. You approach from one side and know your way about; you approach the same place from another side and no longer know your way about.
(Ludwig Wittgenstein, “Philosophical Investigations” [203], 1958)


 
  編集後記:  
  今回のニューズレターは、第十三回国際哲学オリンピアード(ポーランド大会)の報告特集と致しました。日本代表高校生二人を引率された北垣宗治前敬和学園大学長の玉稿を頂きましたことを深謝申し上げます。PDE(Peace and Dialogue on Earth)Inter-Universityニューズレターの使命は、「地球上に平和と対話を」目差す《大学と大学のあいだの広大な社会空間における学術的情報》の交流にあります。IPOはその重要な一翼であります。本誌の関わる様々な国際学術活動については、第九号までの情報を参照下さい。次号も意欲的な編集を用意しております。ご期待を。(文責:延原時行)  

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