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PDE Inter-Universityニューズレター:第二十四号
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PDE Inter-Universityニューズレター第24号:


平成20年度 全国高校哲学エッセイコンクール(2008)

総     評


  今回は全国の15高校から111編の哲学エッセイが寄せられました。日本は2001年以来国際哲学オリンピック(IPO)に参加してきましたが、その予選の応募者が今回初めて100人を上回りましたことを、心から嬉しく思います。入賞者はすでに発表した通りです。最優秀のエッセイを書いた二人、中山雅一君(創価高校)と津村真衣さん(神戸女学院)は現在、当委員会の指導のもとに5月下旬のヘルシンキ大会に備えて、特別の訓練に励んでいます。遅くなりましたが、ここに予選のために提出された111編のエッセイに対する総評を示します。心ある中高生の皆さん(現在中3または高1、高2の諸君)には、奮って来年の予選に応募されることを期待致します。

IPO日本組織委員長  北垣宗治

    • A sense of responsibility for the continuance of a social system is basic to any morality.  (Whitehead)
      社会秩序の存続に対する責任感は、あらゆる道徳の基礎である。(ホワイトヘッド)

       この課題を選択した人のエッセイには、真摯な問題意識をもった論文が目立ちました。今日の日本社会の「モラル崩壊」の状況を憂えつつ思索を進めている人たちの多さには審査者としても心強い思いです。「マナー」「道徳」「規則」「法」それぞれの違いはいかなるものか、という考察や、道徳を「習慣」「感覚」としてとらえる見地、いかにすれば道徳的な姿勢を社会に取り戻せるか、という探究など、興味深い議論もいろいろとみられました。

      さらに思索を進めるならば、「社会秩序の維持への関心」以外に道徳のありかたは考えられないのか。そもそも問題の「社会秩序」がファシズム、独裁国家のような、守るに値するかどうか疑われるようなものだった場合はどうなるのか。それを超えた道徳的な立場とはどのようなものか…といったところまで問いを進めてみてもよかったかもしれません。ここまで哲学的に深く掘り下げようとした論考が意外に少なかったのが惜しまれるところでした。

    • Why is there something, rather than nothing? (Leibnitz)
      なぜ何かが存在するのであって、何も無いのではないのか。(ライプニッツ)

       この課題を選択した参加者の論文が、全体的にみて最も哲学的に考える姿勢がよく表れていたように思います。「存在」そのものを問うという、哲学のそれこそ根本的なテーマに触れた一節だから当然といえるかもしれません。存在への問いから「なぜ自分は自分なのか」という実存的な視点にまで立ち至った思索、「自分が認識していること」と「世界が存在している」事との関係、自分の存在は果たして偶然なのか必然なのか、すべてのものの存在に意味があるのではないか、「可能性」や「過去」「未来」とはどのような意味で存在するのか、といった問いの進展。「存在」だと思っているものが自分あるいは各人の主観によって構成されたものにすぎず、それぞれ別の世界を生きているのではないか、という見方。独自の問いの展開がどのエッセイにも見られました。

      特に審査者の注目を引いたのは、こうした問題を、子どもの頃に考えた経験がある、と報告してくれた人たちが多かったことです。実は審査者自身も同じです。哲学的な問いというのは、素朴ながら根本的な問いを、自分自身の問題としてどこまでも自分の頭で考えていくことである―そういうことを、再認識できるところだと思います。

    • If I had to choose between betraying my country and betraying my friend, I hope I should have the guts to betray my country. (Forster)
      もし祖国と友、どちらを裏切るかを選ばなければならないとしたら、私は祖国を裏切る勇気を持ちたいものだ。(フォースター)

      このエッセイを選択した人たちのエッセイでは、単に個人的な友情観を述べたものや、「自分だったらこうしたい」という決意表明にとどまったものが目立ち、十分に哲学的に考え抜かれたとはいえないものが多かったのが惜しまれました。「友か祖国か、いずれを裏切るか」という選択を迫られるような極限的な場面がどのようなものか、フォースターの生きた時代状況とみなさんの「今」との違いが大きく、リアリティをもって思い描くのが難しかったかもしれません。単に利害の問題として考えた議論や、「祖国を選ぶ=戦争に協力する」ことと、やや短絡的に結びつけた考えが多かったのも残念です。

      そのなかで、「祖国」と「友」とは自分の存在についてどういう意義をもっているのか、祖国とのかかわりと友とのかかわりとはそれぞれどのようなものなのか、「裏切る」とはどういうことなのか、など、問題を哲学的に捉えなおした考察もいくらか見られました。直接見えはしないが、自分の存在を支えてきた「祖国」という大きなものとのつながり。深く心を通わせた一人ひとりの「友」とのつながり。それぞれが自分にとって、人間にとって、どのようなつながりであり、どのような意味を持っているのか。問題意識を哲学的に深めることが大切なようです。

    • Does science need philosophy? (Korean IPO Committee, 2004)
      科学は哲学を必要とするか。(2004年IPO韓国大会の課題)

      「科学」に関しては、学校の授業やニュース、テクノロジーの成果などの形でみなさんもかなり身近に接する機会があるでしょうから、その「科学」とはどういうものか、この課題を選んだ人たちには考え直す機会にもなったようです。「科学は生活を豊かにしたが…」とまず、技術との関連で問題にする議論が多かったのは、科学に接するのがまず技術の成果という形を通してだということの反映でしょう。これには明治期、近代科学を第一に「富国強兵の技術を成り立たせるもの」として導入した、日本の歴史的な事情も絡んでいるはずです。さらに科学がどうして技術と結びつくのか、そもそも科学的な認識とはどういうものなのか、ということの掘り下げまで進んでいたエッセイが、特に評価できるものでした。科学をあくまで「方法論」として理解する見地を示していたエッセイや、科学の認識が「特殊化」「断片化」しやすいという性格、自然に対する「支配」と「共生」の態度の違いなど、さらに科学というものを深く考えた考察も多く見られ、興味深かったものです。そもそも科学的認識自体、何らかの哲学的な立場が反映されており、仮に「科学には哲学は必要ない」という考えをとるなら、それ自体がひとつの哲学(実証主義、さらに極端になれば科学主義)になってしまう、という逆説もあり、その意味で哲学的な見地から科学というものを見直すことは欠かせない。普段は身近だとは感じられないかもしれない「哲学」の意義を考える機会となったとも思います。

      このIPOに応募し、エッセイを書いてみることが、哲学的に考えてみるきっかけになった、という声は本当にたくさん聞きました。また、以前に考えたことのある哲学的な問題意識を、IPO応募が機会になって呼び起こされた、という人も少なくなかったようです。 このように、人生や世界の根本的な問題に自分の頭で考えて取り組んでみる、という哲学の営みは、決して高校生のみなさんにも縁遠いものではないのです。

       哲学は難しいとよく言われます。けれども、哲学者と「問題意識」を共有できたとき、難しく思えた哲学が、驚くほどわかってくる、ということは実はよくあるものです。「どうしてこんなことを問題にしなくちゃいけないのか?」と思えていた哲学の考え方も、自分のなかで同じような問題意識が芽生えたときには、実に身近で、切実な問題として感じられてくる、というわけです。逆に言えば、自分の問題意識と響きあい、自分の問題意識をもっと深く掘り下げてくれるような哲学に出会えば、その哲学は何よりもの人生の導きともなることでしょう。このIPO予選を機会に、みなさんも自分の内なる問題意識をさらに育て、自分の問題意識とかかわりあうような哲学を探しもとめてみたらどうでしょうか。

    以上

 


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