学長室だより
2003年5月9日号
4月11日の午前に学生諸君に「草の上で」という題でお話しをしました。チャペル・アッセンブリー・アワーというのは、わたしにとっては初めての経験でした。聖書は古典の中の古典であり、常にわれわれに何かを語りかけてくれます。よく「パンの奇跡」と呼ばれるマタイ福音書第14章第13~21節の説話も、大事なことを、いま、ここで語ってくれます。
その日暮らしもままならない群衆が「人里離れた所」(13,15節)にいるイエスのもとに集まります。イエスは人々に「草の上に」すわるようにうながし、(イ)群衆への「憐れみ」(=愛)を発動させ(14節)、(ロ)創造主への感謝の祈りをささげます(19節)。この時、食料は十分ではありませんでしたが、イエスは弟子たちに、あるもの全部を出させて、その場をしのぎました。まず、創造主のみ力を信じ、そして弱者との相互扶助の精神を生きる。このことが宣べられ、イエスの処刑後、信徒のあいだで実現されたことが、それまでの人類の歴史になかった「奇跡」でした。
この教えと実践は、急速に人々の心をつかみ、4千人とか5千人程度の数ではなく、ついには迫害者であったローマ帝国さえ、この教えを公認せざるを得ませんでした。この教えは「草の上」から出発しました。権力とか、財力とか、因習とかの上ではなく、あらゆる束縛から解き放たれた「草の上」からの出発でした。「人里離れた」この敬和学園の「草の上」を、大事な社会改造の原点としようではないか、若い人々の顔を見ながら、わたしは語りました。(新井 明)