学長室だより

イエスにおいて成就した新しい契約

神とイスラエルの契約だけで、聖書の契約思想を語ったことにならない。時空を超えた契約思想は、より深められ精神化されるに至ったからである。
預言者エレミヤは、前587年に国が滅亡する頃エルサレムで新しい契約の預言を語った。エレミヤによると、イスラエルの民が契約を破棄したため、神はモーセによるかつての契約に代えて、新しい契約を授けるという。「見よ、わたしがイスラエルの家、ユダの家と新しい契約を結ぶ日が来る」と神は言う(エレミヤ書31章31節・新共同訳)。最初の契約と異なり「わたしの律法を彼らの胸の中に授け、彼らの心にそれを記す。わたしは彼らの神となり、彼らはわたしの民となる。……彼らはすべて、小さい者も大きい者もわたしを知るからである……わたしは彼らの悪を赦し、再び彼らの罪に心を留めることはない」(33節~34節)という。ここではまだ未来の「彼ら」が対象である。
モーセによる契約が古い契約とされ、旧約聖書の呼称が生まれる一方で、イエスの最後の晩餐、十字架上の死と復活が新しい契約の成就であるとされ、新約聖書が成立する。福音を聞いている「あなた」が契約に招き入れられるに至ったのである。(鈴木 佳秀)