学長室だより

時空を超えた世代との契約締結

モーセを仲保者として神がイスラエルとの間に結んだ契約は、その世代だけのものではなかった。申命記29章13節~14節でモーセは「私は、あなたたちとだけこの契約を結びこの誓約を交わすのではない。今日われわれと共にわれわれの神ヤハウェの前に立っている者たちと、今日われわれと共にここにいない者たちとも〔契約を結び誓約を交わすの〕である」(私訳)と宣言している。未来の世代も対象に契約が締結されているのは明らかで、古代イスラエル独自の「実存主義的」思想だと言える。
時空を超えて世代が参与するという発想は、彼らの歴史理解にも反映している。モーセに率いられエジプトを脱出した記録が出エジプト記に伝承されているが、歴史書編纂時代を含む民族全員(60万人)がモーセと共に脱出し約束の地を目指した、という意識で編纂されている(12章37節)。同じ思想が彼らの信仰告白にも凝縮されている。どの時代に生きる者でも、申命記26章5節後半~10節の「われわれ」告白を自分のものとして告白する。時空を超えて民族の歴史を共有するこうした思想が苗床になり、後にブーバーのような数多くのユダヤ人思想家を輩出することになったのである。(鈴木 佳秀)