学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その18

「ダビデのしたことは主の御心に適わなかった」(サムエル記下11章27節)と、テキストはごく短い言葉で宮廷内のスキャンダルを総括しています。ダビデ王位継承史の中で、短いメモ書きの言葉が出来事の推移を冷徹に物語る場合があります。「サウルの娘ミカルは、子を持つことのないまま、死の日を迎えた」(下6章23節)もそうですが、神の導きに言及することがあまりない中で、このメモ書きは際立っています。ダビデ王のごく身近なところで仕えていた人物にして初めて語りうる言葉ではないか、と人は思うのです。研究者は、この叙事詩の作者を宮廷の王の側近の中から捜そうとしてきました。都市エルサレムの守護神に仕えていた祭司でなく、ヤハウェ祭司で、王に身近なところに仕えていた人物に光があてられたのです。候補とされたのは、サウルによって惨殺されたノブの祭司の生き残り、アヒメレクの息子アビアタルです(上22章20節~23節)。バト・シェバが後に産んだソロモンが即位する際に、アビアタルはアドニヤ側についていたためエルサレムから追放されているからです(列王紀上2章26節~27節)。バト・シェバが関わった事件を、冷徹な目で描いている人物としてアビアタルが考えられたのも、自然であったかもしれません。しかし、彼こそが叙事詩の記者であると断定されたわけではありません。(鈴木 佳秀)