学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その49

アブネルがサウルの側女と関係をもった事実を、イシュ・ボシェトは重く受けとめたのです。彼が王位をねらっていると考えたからでしょう。アブネルが怒ったのは、忠誠心を疑われたからかもしれません。「イシュ・ボシェトはアブネルを恐れ、もはや言葉を返すこともできなかった」とサムエル記下3章11節は伝えています。イシュ・ボシェトを見かぎったアブネルは、ダビデに使者を送り「この地を誰のものと思われますか。わたしと契約を結べば、あなたの味方となって全イスラエルがあなたにつくように計らいましょう」と言わせています(12節)。取引することで、アブネルは自分がダビデのもとで指導的な地位を占めうると考えたのでしょう。
この誘いにダビデは答えて「よろしい、契約を結ぼう。ただし、一つのことをわたしは要求する。すなわち、会いに来るときは、サウルの娘ミカルを必ず連れてくるように。さもなければ会いに来るには及ばない」と条件を出したのです。ミカルは父によって強制的に離別させられ、別の男に嫁がされていました。なぜ彼はミカルを要求したのでしょうか。ただ元通りの夫婦になることを願ったのではないと思われます。サウル王の娘が妻であれば、ダビデは反逆者でなく、サウルの正統なる後継者となる大義名分を手にすることができるからなのです。(鈴木 佳秀)