学長室だより
ダビデの物語・ダビデの台頭史その53
イスラエル諸部族の召集軍は解体の危機にありました。野心を抱く者たちがダビデに取り入ろうとしたのは、起こるべくして起こる状況であったかもしれません。「アブネルがヘブロンで殺されたと聞いて、サウルの息子、イシュ・ボシェトは力を落とし、全イスラエルはおびえた」とサムエル記は伝えています(下4章1節)。ベニヤミン出身でサウル軍の掠奪隊長あったバアナとレカブは、イシュ・ボシェトを訪ね、昼寝をしていた彼の腹を突き刺し首をはねて逃げ、ヘブロンのダビデを訪れてその首を差し出したのです(2節、5節~8節)。ダビデは大手柄だと賞賛したでしょうか。
ダビデの対応は違っていました。「あらゆる苦難からわたしの命を救われた主は生きておられる。かつてサウルの死をわたしに告げた者は、自分では良い知らせをもたらしたつもりであった。だが、わたしはその者を捕らえ、……処刑した。それが彼の知らせへの報いであった。まして、自分の家の寝床で休んでいた正しい人を、神に逆らう者が殺したのだ。その流血の罪をお前たちの手に問わずにいられようか。お前たちを地上から除き去らずにいられようか」と語り彼らを処刑したのです(9節~12節)。イシュ・ボシェトはヨナタンの弟でしたから、権力闘争の悲しみの中で、ダビデの思いは怒りに満ちていたことでしょう。(鈴木 佳秀)