学長室だより
ダビデの物語・ダビデの台頭史その57
「ダビデはこの要害に住み、それをダビデの町と呼び、ミロから内部まで、周囲に城壁を築いた。ダビデは次第に勢力を増し、万軍の神、主は彼と共におられた」(サムエル記下5章9節~10節)。エブス人の町エルサレムはイスラエル諸部族が管理する町ではありませんでした。その町を征服し自分の町にしたのです。「ダビデの町」という呼称は意味深長です。イスラエル諸部族の長老たちと契約を媒介に王に即位したのですが、召集軍を組織することはできても、王国を経営する手段はまだなかったと言わなければなりません。ダビデの狙いは明確でした。自分の部下たちでエルサレムを占領し手に入れたからです。後にイスラエル召集軍の他に、ダビデは側近からなる常備軍を組織します(後述)。
エルサレムが「ダビデの町」と宣言されたことは、諸部族の介入を許さないという宣言でもあります。イスラエルの王となったダビデ個人が支配するエルサレムが王国の首都となったため、私的な所有というイメージが国家理解に流れ込む原因となったのは言うまでもありません。神と民との間に立つ仲保者として機能するのか、独裁的に臣民を支配するエジプト的な統治に向かうのか。叙事詩の記者も後代の歴史家も、この歴史的な推移に目をこらしていたのです。公私のバランスをダビデはどのように維持したのでしょうか。(鈴木 佳秀)