学長室だより
2012年度入学式式辞(鈴木佳秀学長)

2012年度入学式での鈴木佳秀学長の式辞
学生諸君の皆さん、入学おめでとうございます。入学された皆さんだけでなく、ご家族の方々、保護者の方々に対し、学長としてお祝いの言葉を述べさせていただきます。
入学される皆さんは、高等学校の3年間、充実した日々を過ごされましたか。平穏のうちに、あるいは楽しく過ごされた方もある一方で、大変苦しい高校生活を送られた方、あるいは苦労して卒業にこぎ着けた方も、おられるのではないでしょうか。皆さんの高校生活の思い出もさまざまでしょう。これから皆さんは、敬和学園大学という、同じ学舎で過ごすことになります。この大学で、皆さんがどのような出会いを経験されるのか、どんな思い出を築いて行かれるのか、それは未知数です。
敬和学園大学では、「可能性は力になる。」をコンセプトフレイズに定めました。それは、皆さんが持っている未知の可能性は、4年の間に深められ、夢の実現に向けた力となるはずです。入学された時点では、皆さんが手にしている経験はどのようなものでしょうか。それを、一枚のキャンバスにたとえることができます。それは、まだ十分な色づけがされていない、下絵だけのキャンバスです。そのキャンバスは、もちろん真っ白ではありません。小学校から中学校までの義務教育に加え、高等学校3年間の生活で、皆さんのキャンバスには、薄く下絵が塗られている、ということができるからです。でも、それはまだクッキリとした輪郭を持った絵ではないでしょう。義務教育の時代はもちろんのこと、制限された枠組みの中での生活を送ってこられたからです。
高等学校卒業までの経験を顧みれば、あなたがたに許された自由が、限定的であったからです。例えば、授業の時間割の作成や、クラス分けを考えてください。一定の基準に基づき、学校から指定されたクラスに所属していたでしょうし、学習する教室も同じ部屋と決められていたからです。同じ学級に所属する学生諸君は、ほぼ同じ時間割で生活し、登校や下校時刻も、ほぼ共通している場合がほとんどです。スポーツや音楽などのサークル活動の自由はもちろんあったはずです。そこでの自由は認められていますが、基本的に、先生方の厳しい指導のもとに置かれていたはずです。高等学校までの教育には、大きな意義はなかったと、ここでいうつもりは全くありません。
皆さんのキャンバスに描かれている下絵が活かされるのかどうかは、これからの自由をどう使うかにかかっているからです。大学に入学された後に、受講する授業一つを取り上げても、これまでの生活とは全く違う地平で、皆さんは過ごすことになります。皆さんがこれから直面する、自由選択制を念頭に置いていますので、あえて申し上げなければならないと感じているのです。高等学校までの時代に許されていた自由と、大学入学後の自由の違いを強調するのは、今日、皆さんがスタートラインに立っておられるからです。
例えば、1年目の授業計画を立てる時に、自分はどの科目を受講するかは、担任の先生が決めるのではなく、クラスによって決まっているのでなく、あなたがたが決めなければならないのです。誰かがどの授業を取るのかを指導し、決めてくれるのではありません。月曜日から金曜日までの授業時間帯を決定する責任は、あなただけが持っているのです。大学の講義や演習については、まず皆さんが、一年次に取れる授業科目の中から選ばなければなりません。一年次の必須科目や基礎演習などは、もちろん皆さんの希望を考慮しますが、語学の授業、特に英語の授業については、事前に試験を実施し、クラス分けをいたします。テストを受けることについては、皆さんがその結果責任を負うことになります。その結果に基づき、クラス別の授業時間帯に振り分けられます。この場合には、決められた枠、例えばですが、火曜日の4限のクラスで、部屋もE21教室というように、指定されたところで受講することになります。
こうした場合は、もちろん自由な選択制という枠から外れます。ですから、完全に自由だという訳ではありません。大学は、自由選択制を取りながら、秩序ある受講が達成されるように配慮しなければならない所だからです。入学式後に、皆さんは、シラバスという分厚い本を手に、作戦を練らなければなりません。有意義な4年間を過ごすため、どのような順序で授業を選択し、必要な単位を積み重ねて履修していくのか、いわば戦略が求められます。それぞれの授業が何曜日の何限で、担当教師の名前、その講義はどのようなプログラムで実施され、講義の狙いや目的、使う教材等についての情報を、シラバスを手がかりに調べなければなりません。履習相談日が定められていますから、担当者から助言やアドヴァイスを求めることはできます。自由だからといって、皆さんを放置しておくのではありません。必要な手助けは用意されていますが、さまざまな希望や計画を基盤にして、自分だけの授業時間割を作成することになります。
わたくしが長く努めていた前任校では、ある科目を取りたいと希望し、教室に出向くと、決められた受講者数を超える大勢の学生が履修を望んでいるため、しばしば抽選が行われ、せっかく計画した授業時間割がご破算になることもよく見かけました。この敬和学園大学は、少数の学生諸君に、丁寧な教育をほどこすことに全力を挙げていますから、抽選ということはまずありません。能力別のクラス編成があるため、テストを実施する点で、フェアなやり方をしています。
皆さんを前に、これだけは申し上げなければならないということがあります。それは、自由には責任が伴う、ということです。この点で、皆さんは大人としての扱いを受けます。自分は既に大人だと自覚している方もおられるでしょう。高等学校時代に許されていないたばこを隠れて吸ったり、飲めないはずのお酒を密かに飲んだという経験をお持ちの人は、まだ未熟だったということです。このようなことを申し上げるのは、自由が認められている皆さんを、わたくしたち教職員は、大人として迎えるからです。自由が認められている大学生としての生活には、規律が求められているということを申し上げておきたいと思います。大学とは、在学する学生諸君に最大限の自由な機会を提供しながら、共同で秩序ある規律を守ろうとする「共同体」だからです。
さて、この4年間で、皆さんが、皆さんのキャンバスにどのような絵を描いていくのか、それをわたくしども教職員は、大変楽しみにしています。高等学校卒業までに、皆さんが皆さんのキャンバスに描いてこられた経験や思い出の絵は、下絵であるという言い方を、あえていたしました。その下絵は、無意味なのではなく、それはこれから本格的に描こうとする絵の前提になるものです。大学生活で皆さんが描く絵は、油絵のように、その下絵の上に、厚く重ね塗りをする毎日になるのです。どのキャンバスも、個性に満ちた絵になるはずですし、ならざるを得ません。その色合いを決めるのは皆さんです。キャンバスには、皆さんが選んだ絵の具の色が、多彩にちりばめられることになります。
4年間は短いです。皆さんが予想する時の流れよりもはるかに短く感じるはずです。制限がある中で決められた生活を送るのでなく、これからは、自分の責任で、自由に決めることができる生活になるからです。決められた枠の中で窮屈に過ごす4年間ではありません。未知なる可能性に満ちている4年間ですから、時の流れは、今まで経験したことがないほど、早く感じるはずです。皆さんの4年間に、どのような出会いがあり、どのような出来事が待ち受けているでしょうか。
敬和学園大学は、キリスト教主義に基づくリベラルアーツ教育を理念として掲げています。自由に、枠にこだわらずに、幅広い学びができることを強調しています。リベラルアーツ教育とは「カタ」を学ぶことだと、わたくしは考えています。あえてカタカナで「カタ」と呼びますが、それは、本の読みカタ、講義ノートのとりカタ、資料を使う学びカタ、自由な生活の中での秩序ある生きカタ、自己管理のしカタ、あいさつのしカタ、相手の話を聞く時の聞きカタ、人を愛する時の配慮のしカタ、告白のしカタ、つき合いカタ、お礼を言う時の言葉の選びカタ、など例を挙げると、きりがありません。これらカタの習得は、スポーツや芸術においては当たり前のことです。相撲などは特に、毎日毎日、カタを習得する訓練を受ける必要があるのです。それが新弟子の生活であり、体をつくる訓練なのです。芸術の場合も同じです。カタを身につけなければ、曲を演奏するにも、舞うにせよ、舞台に立つことは不可能です。野球でもサッカーでも、ラグビーでも同じです。カタを習得しないで試合に臨めば、結果は出ないし、怪我をするのは目に見えています。このカタのことを、スポーツでは基本と呼んでいることはお分かりだと思います。
なぜ、リベラルアーツ教育という言葉で敬和学園大学での教育理念を標榜しているのかと申しますと、カタを習得することで、基礎的な知識を身につけると同時に、人として基本を身につけ、その上に個性を重ねていくことで成長すると信じているからです。つまり、自立した責任ある大人になるための教育なのです。申し上げるまでもなく、教育は知識だけではありません。大切なのは精神です。それは、生きる姿勢を含めた心の豊かさであり、隣人に心遣いができるというゆとりであり、社会的に弱者と呼ばれているような方々に寄り添うことのできる度量、勇気、愛情、そうしたもろもろのことを身につけていただくための、キリスト教主義に基づく、カタの教育なのです。それは既にある下絵を土台に、皆さんが、自分のキャンバスを作り上げるためのものです。
本学にはキャリアサポート課という部署があり、学生諸君が就職活動をする際には、必ずお世話になるところです。学生諸君には、実社会に巣立つ前に、世の中の常識を身につけていただくためのマナーについての教育も受けていただきます。本学のリベラルアーツ教育を受けて、4年間を過ごした学生諸君は、自分が描いた彩り豊かなキャンバスを手にします。その描いたキャンバスを手にして、会社訪問あるいは学校訪問、福祉施設を訪れることになる、そのようなイメージを皆さんに持っていただきたいのです。昨年度の就職内定率は、94パーセントを超えています。リーマンショック以降の日本経済、あるいは世界経済の状況は、不況という言葉で言い表されていますが、それが直ちに学生諸君の就職活動に、直接影響を与え続けてきたことは、申しあげるまでもありません。しかし敬和学園大学についていえば、本学の在学生だけを対象にした就職説明会には、毎年、90社に近い企業が訪れてくださり、学生諸君と面談してくれています。
本学は人づくりを、心の教育と捉えたリベラルアーツ教育といういい方をしているのですが、カタの教育を受けつつ敬和学園大学での4年間で描いた、自分だけのキャンバスを手に、皆さんの先輩たちは社会に巣立っていかれたのです。企業の方々の信頼を獲得してくれたのが、先輩たちなのです。学長として、本学の教育方針に間違いはないと確信しております。
今日この日、入学式を迎えた皆さんを心から歓迎します。皆さんが今手にしているキャンバスが、彩り豊かな絵になりますように、願ってやみません。どうか楽しい、朗らかな思い出をたくさん積み重ね、自分に与えられた可能性を力にする、充実した学生生活を送ってください。
2012年4月4日
敬和学園大学長 鈴木佳秀