学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その52

「ダビデは頭を覆い、はだしでオリーブ山の坂道を泣きながら上って行った。……アヒトフェルがアブサロムの陰謀に加わったという知らせを受けて、ダビデは、『主よ、アヒトフェルの助言を愚かなものにしてください』と祈った。神を礼拝する頂上の場所に着くと、アルキ人フシャイがダビデを迎えた。……ダビデは彼に言った。『わたしと一緒に来てくれてもわたしの重荷になるだけだ。都に戻って、アブサロムにこう言ってくれ。『王よ、わたしはあなたの僕(しもべ)です。以前、あなたの父上の僕でしたが、今からはあなたの僕です』と。お前はわたしのためにアヒトフェルの助言を覆すことができる。都には祭司ツァドクとアビアタルもいて、お前と共に行動する。王宮で耳にすることはすべて祭司のツァドクとアビアタルに伝えてほしい。また、そこには彼らの二人の息子も共にいる。……耳にすることは何でもこの二人を通してわたしのもとに伝えるようにしてくれ。』」(サムエル記下15章30節~36節)
自分を裏切ったアヒトフェルが軍師として優れているのを認めつつ、ダビデはフシャイをエルサレムに送り込んだのです。神の箱を後ろ盾に息子と戦うことは避けたのですが、アブサロム側の情報を得るルートを残したのです。こうした聖書の伝承は迫真的で、後代の歴史家(申命記史家)がそれを叙事詩に組み込んでいるのですが、側近たちの証言が残されていたと思われます。(鈴木 佳秀)