学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その83

「ヨアブはイスラエル全軍の司令官。ヨヤダの子ベナヤはクレタ人とペレティ人の監督官。アドラムは労役の監督官。アヒルドの子ヨシャファトは補佐官。シェワは書記官。ツァドクとアビアタルは祭司。ヤイル人イラもダビデの祭司。」(サムエル記下20章23節〜26節)
これは、シェバの反乱後、メモ書きで記されている役職者のリストです。トップにヨアブの名が挙げられています。彼は常備軍の最高位を確保したのです。ベナヤは外国人傭兵部隊の長で、元ペリシテのギリシア人兵士たちを統率していました。部族連合時代のイスラエルにはなかった王直属の部隊で、親衛隊です。「労役の監督官」という職名に目がとまります。労役とは王国が住民に課す賦役を意味していますから、租税と賦役を基盤にした国家支配体制が確立したことを暗示しています。「補佐官」は官房長官です。「書記官」の存在も重要です。王国がバビロニアに滅ぼされた後、歴史家(申命記史家)が王国の歴史を編纂するのですが、宮廷内に保管されていた公文書を使ったことはほぼ間違いありません。注目すべきはダビデの王国を支える祭司たちです。ツァドクは伝統を誇るエルサレム聖所の祭司階級の長で、アビアタルはダビデが王になる前から共に歩み続けたヤハウェ祭司です。二人は王国の宗教を支えるライバル同士です。イラは宮廷祭司で、ダビデ私設の宮廷聖所を託された祭司です。この二元的な構造が、後に悲劇を生むことになります。(鈴木 佳秀)