学長室だより

ダビデの物語・ダビデの台頭史その35

「サウルは変装し、衣を替え、夜、二人の兵を連れて女のもとに現れた」とあります(サムエル記上28章8節a)。口寄せの女を訪ねるのに護衛の兵士を伴い、変装して現れたのには理由がありました。異教の口寄せに会うところを部下たちに見せるわけにはいきません。王の宗教的な信頼が失われると、故郷を守るために自主的に従軍している募兵軍兵士は、戦いの意味を見失い自分の家に戻ってしまうからです。
「サウルは頼んだ。『口寄せの術で占ってほしい。あなたに告げる人を呼び起こしてくれ。』女は言った。『サウルのしたことをご存知でしょう。サウルは口寄せと魔術師をこの地から断ちました。なぜ、わたしの命を罠にかけ、わたしを殺そうとするのですか。』」(8節b~9節)のやりとりは迫真的です。もし彼女が口寄せの術を行ない、密告されれば死罪になることは明らかでした。依頼しに来た客が自分を罠にかけようとしていると疑ったのです。「サウルは主にかけて女に誓った。『主は生きておられる。この事であなたが咎(とが)を負うことは決してない。』」(10節)とあるのは、神ヤハウェの名にかけて自己呪詛(じゅそ)をもって誓ったことを意味しています。
ヤハウェの名で誓い異教の口寄せに頼ること自体は、神を冒瀆(ぼうとく)する行為です。そこまでしてサウルは誰を呼び出してほしいと思ったのでしょうか。(鈴木 佳秀)