学長室だより

ダビデの物語・ダビデ王位継承史その67

「兵士たちはイスラエル軍と戦うために野に出て行った。戦いはエフライムの森で起こり、イスラエル軍はそこでダビデの家臣に敗れた。大敗北で、その日、二万人を失った。戦いはその地の全面に広がり、その日密林の餌食になった者は剣が餌食にした者よりも多かった。」(サムエル記下18章6節〜8節)
アブサロムの軍隊は、農作業に従事している者や小家畜を飼育している若者たちを寄せ集めた集団に過ぎません。戦いになれていない若者を強制的に集めて戦場に出す方も出す方です。ダビデ軍は常備軍の兵士たちで、いわば戦いのプロでした。その戦いのプロが相手を誘い込んだのがエフライムの森と呼ばれる、密林だったのです。ヨルダン川を渡った所には平地らしき場所はありましたが、そこで戦闘が行われたのではないのです。ダビデ軍の術中にはまった兵士たちは、集団で戦う訓練もないまま、森の中で狙い撃ちにされて次々に倒されたのです。攻撃を逃れようとした兵士たちは、入ったこともない森の奧へと逃げ去りました。しかし密林の餌食になった者の数が、剣で倒れた者の数より多かったというのです。その惨劇を考えてみれば、この戦いがいかに無謀であったかが分かります。アヒトフェルが提唱した絶好の機会を捨てて、ダビデ軍に堅固な城塞に逃げ込む時間を与えた末に、森での戦いに臨んだのです。アブサロムの軍隊は見事なまでにダビデの将軍たちの術中にはまったのです。兵士の数は問題になりませんでした。プロとアマチュアの戦いだったのです。(鈴木 佳秀)