学長室だより

犯人不明の殺害遺体をどう処理したのか

古代社会では、裁判ができない殺人事件も起こりえました。殺害された人の遺体が野原で見つかったが、犯人が分からない場合の処理について、申命記が規定しているからです(21章1節~9節)。罪なき者の血が大地の上に流された、と彼らは考えました。近隣の共同体にとって、それはゆゆしき事件でした。呪いが到来したと受け止めたからです。
遺体現場から一番近い町が役人によって選定されると、その町の長老たちが遺体をめぐる処理に責任を負ったのです。儀礼的な清めが必要でした。レビ人祭司の立ち会いの下で、穢れのない川の中で犠牲の雌牛の首を折り、その上で長老たちは手を洗い「われわれの手はこの血を流さず、またわれわれの目は〔それを〕見ませんでした。ヤハウェよ、どうかあなたが贖い出したあなたの民イスラエルのために〔血の咎を〕拭い去って下さい。……罪なき者の血〔の責め〕を負わせないで下さい」(私訳)と告白することになっています。それを受けて、祭司が遺体を埋葬したと思われます。
逃亡した殺人犯は、神の前から逃れることはできない。その強固な前提の下で、その血の咎がイスラエルに及ばないよう、執り成しを求めたと言えます。(鈴木 佳秀)