学長室だより
ダビデの物語・プロローグその2
ダビデをめぐる歴史伝承は二つあります。一つは「ダビデの台頭史」と名付けられているもので、他は「ダビデ王位継承史」です。前者は、ベツレヘム(「パンの家」の意)で生まれたダビデ(「愛する者」「司令官」(?)の意)が、その時の王サウル(「求める者」(?)の意)によって登用され、軍人として力を発揮し、英雄として台頭してくる物語です。後者は、サウル王が戦死した後に即位したダビデの玉座が、どの皇太子によって継承されるかを描いているドラマです。
王国が成立する前のイスラエルは部族連合体として存在していましたが、ガザ地区に入植したギリシア人たちに軍事的に圧迫され、紀元前11世紀中頃からその存在が脅かされるようになります。こうした危機の中に登場してきた英雄が、サウルでありダビデなのです。
この時代に、イスラエル部族連合体を精神的に、軍事的かつ行政的に指導していたのがサムエル(「その名は神」の意)です。聖書ではルツ記の後にサムエル記上・下が置かれていますが、ダビデについて語り始めるには、物語の順序としてサムエルに触れなければなりません。サウルを見いだし、後にダビデを王に据えたのがサムエルだからです。(鈴木 佳秀)